研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04672
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾崎 雅則 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50204186)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液晶 / 有機半導体 / ソフトクリスタル |
研究実績の概要 |
液晶の柔軟さと運動性を担保したまま「結晶化」することにより、オングストロームオーダーの精緻な配向・配列秩序と、自己組織化によるメートルオーダーの分子配列秩序とを両立したソフトクリスタル電子デバイスの実現を目的して、液晶性フタロシアニン同族体を用いて下記の成果を得た。(1) non-perypheral-オクタアルキルフタロシアニン(CnPcH2)薄膜のキャリア輸送特性をMIS-CELIV法を用いて調べた。その結果、CnPcH2のアルキル鎖長がn = 5から8に増加すると、正孔移動度が10-4から10-5 cm2V-1s-1の範囲で減少することがわかった。さらに、塗布法により作製したCnPcH2薄膜のアルキル鎖長とキャリア伝搬サイトのエネルギー分布との関係を調べ、正孔移動度の温度依存性および電界依存性をガウス型無秩序モデルを用いて解析し、ホッピングサイトのエネルギー幅の拡大とホッピング距離の分布を考慮して、アルキル鎖長の影響を明らかにした。(2) フタロシアニン誘導体CnPcH2の分子パッキング構造と熱膨張に着目し、密度汎関数理論DFTによるキャリア輸送シミュレーションを行い、異なる隣接二量体間距離を考慮して実効的なキャリア移動度の温度変化を検討した。その結果、正孔移動度については、熱膨張に伴うπ電子軌道の重なりの低減を考慮した計算結果が実験結果と良い一致を示した。しかし、電子移動度については、実験と矛盾する結果となった。そこで、CnPcH2のLUMOとLUMO+1の縮退の影響を考慮して計算した結果、正孔、電子ともに計算値と実験結果の良い一致が確認され、キャリア移動において、熱膨張による隣接二量体間距離の変化とともに、LUMOの縮重効果を考慮することの重要性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初研究計画は、高い電子性伝導(>1cm2/Vs)を示すフタロシアニン骨格液晶半導体をベースとして、側鎖置換基の導入最適化により分子間相互作用と運動性の精緻な制御を行いソフトクリスタル材料としての機能を明らかにし、さらに、印刷プロセス(バーコート法)で作製した薄膜から、溶媒蒸気処理により大面積薄膜単結晶(数cm2、数から数十nm厚)を作製しそのデバイス特性を明らかにすることである。以下の三項目、すなわち、(1)分子配列秩序ならび運動性の評価、(2)キャリア伝導機構の評価およびシミュレーション、(3)溶媒媒介転移・接種凍結による薄膜単結晶と電子光デバイス作製に基づいて研究を進めた。(1)については、ドナーアクセプター型共役系高分子で見出された特異でかつ極めて優れた分子配向特性を、X線構造解析、分子動力学計算などの手法を駆使して評価を行い。その機構モデルを提案するに至った。(2)については、アルキル鎖長の異なるフタロシアニン誘導体のキャリア移動度をCELIV法を用いて評価・解析し、ホッピングサイトのエネルギー幅の拡大とホッピング距離の分布を考慮して、キャリ伝導に及ぼすアルキル鎖長の影響を明らかすることができた。加えて、DFT計算による解析も行った。(3)については、種結晶を用いたバーコート薄膜の接種凍結法により大面積薄膜単結晶を実現し、多形制御の可能性を示唆する結果を得た。以上のように、当初計画に沿って、順調に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き当初計画に沿って研究を推進することは勿論のこと、領域内共同研究を積極的に進展させる。特に、分子配列制御によって得られた高キャリア移動度有機半導体の熱伝導機構に関する知見および理論研究者との議論により結晶構造選択性などに関する知見を研究計画にフィードバックする。
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