研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04674
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
松本 有正 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (20633407)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キラル結晶 / ソフトクリスタル / 結晶相転移 / 円二色性スペクトル / 有機結晶 |
研究実績の概要 |
互いに鏡像の関係であるキラリティーは生体分子への作用の違いや効率的な不斉合成法の開発など薬学や有機化学において重要なトピックである。近年このキラリティーの概念は有機合成にとどまらず,キラルな分子が持つ物性の材料への応用が注目を集めるようになってきている。本研究は本来キラリティーを持たないアキラルな分子が結晶化する際に, 分子のねじれの固定化やらせん状の周期構造により対称性が崩れてキラリティーを発現するアキラル化合物のキラル結晶化現象に着目し,結晶多形の制御や結晶内への異なる分子の取り込みによって,円二色性など有機結晶材料に新たな物性発現を目指す物である。本年度の検討ではアキラル化合物であるが比較的キラルな構造へ結晶化しやすいことが知られているベンゾフェノン誘導体に着目し,この分子にアミンなどのドナー部位を持たせることでアキラル分子のみからなるキラルな有機発光材料を創出することを目指した。このベンゾフェノンをアクセプター,アリールアミンをドナーとしたドナー-アクセプター型の発光分子の誘導体を系統的に合成し,結晶化を行ったところ,合成した誘導体の中にはキラル結晶となる誘導体は少なかったが,その多くが中心対称性を持たない極性結晶となり,また固体状態で高い発光量子収率を示した。またこれらの化合物のうち極性結晶となった誘導体は圧力を加えることにより発光を示すことが明らかとなり,応力発光を示す材料としても有望であることが判明した。また様々な置換基を持つ誘導体を合成する中で,いくつかの誘導体で同じ分子が異なる構造に結晶化する結晶多形が発現し,圧力や熱と言った外部の影響によって発光色,発光強度が変化する化合物を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度までの研究により,いくつかのベンゾフェノン構造に置換基としてドナー部位を持たせることにより,これらのベンゾフェノン誘導体が固体状態においても高い発光量子効率を持つことを見いだし,有機発光材料として有望であることを確認している。 感染症の拡大により外部での物性測定の実施が困難になり,キラル物性の測定が予定通り行えないなど,当初の目的としていたこのアキラルなベンゾフェノン誘導体のキラル結晶化あるいはアキラル分子のキラル結晶への取り込みを利用することで,キラリティーを持たない分子に円二色性などのキラル物性を発現させる課題については未だ十分な結果が得られていない。 しかしながらこれらの検討で得られた様々な極性結晶となる誘導体の結晶は応力発光を示すなど興味深い発光特性を持っていることが明らかとなった。また有機結晶材料や物理的な刺激に応答して発光挙動が変化する有機材料など応用上興味深い現象を多く見いだしている。また置換基の位置を変えることによる結晶構造の変化や結晶多形の発現についても系統的な知見が蓄積されてきており,どのような分子を設計すればキラル結晶あるいは極性結晶となりやすいかといった今後の分子設計をする上で有効な情報が集まっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により,固体発光を示す有機結晶性材料の置換基の変化により,結晶多形が大きく変化し,その発光挙動が大きく変化すること。また結晶多形を有する有機発光成分子では刺激に応じて発光特性が大きく変化することを見いだしている。2021年度の検討ではこの刺激に対する応答についてより詳しく調査する。刺激に対して物性変化が見られた化合物について,より詳しい物性測定や構造解析を行い,またその類縁体を合成,結晶化して物性と構造を比較することにより,その刺激応答メカニズムの解明や機能性材料への応用可能性を探索する。 またキラルな物性の発現を目指した検討としては,これまでの研究により置換基の導入位置により対称性を下げることでキラル結晶化が起こることも明らかとなっている。今後はこのキラル結晶化を起こした誘導体についても詳しく物性測定を行い,当初の目的であるキラル結晶化によりアキラルな分子にキラルな発光特性を持たせることを目指した検討やキラル物性をもった材料としての応用を探る。 具体的にはメタ位やオルト位への置換基の導入した誘導体を合成することにより分子のねじれを増大させ,結晶多形の発現やキラル結晶化を目指す。得られた結晶について,結晶間での相転移が可能化について検討していく。またこれまで発光部位として燐光特性をもつベンゾフェノン誘導体に着目して研究を行っていたが,テトラフェニルエチレンなど他の発光分子についてもキラル結晶化が起こるか検討範囲を広げていく。
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