分子が右手、左手の関係のように自身の鏡像となり重なり合わない、キラリティーという性質は、生体分子の多くがキラリティーを持つため有機合成分野においてこれまでも重要な研究課題であった。これに対して近年、キラリティーの概念は有機合成や分子のキラリティーだけでなく、集合体やナノ構造が持つキラリティーやキラル物性の応用が注目を集めている。本研究は本来キラリティーを持たないアキラルな分子が結晶化する際に、分子の配向や周期構造にキラリティーが現れる、アキラル化合物のキラル結晶化現象に着目し,結晶構造の持つキラリティーやキラルな結晶構造への分子の取り込みによって,キラリティーを持たない分子によるキラル物性の発現を目指す物である。前年度までの検討によりアキラルなベンゾフェノン誘導体が比較的キラル結晶化を起こしやすいことに着目し,この分子にアミンなどのドナー部位を持たせることでドナーアクセプター型の固体発光分子の合成、結晶化を行い。アキラル分子のみからなるキラルな有機固体発光材料を創出することのに成功している。また今年度の検討では、有機固体分子に対してキラルな光である円偏光を照射することで固体状態での円偏光の吸収特性が可逆に変化するという現象を見いだした。この現象は結晶中での分子の配列のキラリティーが、光という物理的な外部刺激による変化を受けることを示した例であり、そのメカニズムまではまだ明らかにできなかったが、光によるキラリティーのコントロール可能な有機結晶材料という応用上、興味深い発見である。
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