2021年度は、関西学院大・加藤グループで報告されたNi錯体のベイポクロミズム現象について、周期的QM/MM法およびバンド計算を利用した計算解析を行い、その分子論的メカニズムの解明を行った。結晶構造が未知の4配位Ni(II)錯体の結晶構造について、豊橋技科大・後藤グループと共同してCONFLEX社の結晶構造探索プログラムを利用した構造探索を行い、得られた18個の候補構造についてバンド計算による構造最適化を行った。その結果、エネルギーが安定かつ実験のXRD反射パターンをよく再現する構造を得ることに成功し、さらに吸収スペクトルのシミュレーション結果から、実験で観測されているベイポクロミズムのエネルギーシフトを定量的に再現することにも成功した。電子状態の詳細な解析から、4配位Ni(II)錯体では、隣接する錯体分子間の軌道相互作用により1次元的なバンドを形成しており、低エネルギー領域に非常にブロードな吸収が観測されることが明らかとなった。また、メタノール分子が配位することで生成する三重項の6配位Ni(II)錯体では、4配位錯体で見られる軌道相互作用がなく、キノノイド由来のピークが観測されると結論付けた(現在、論文執筆中)。 また、こうした分子結晶中の量子的な相互作用を取り込むために、無限次元DMRG法の開発を行った。Hubbard模型を用いたベンチマーク計算では、1次元無限格子のエネルギーを単位格子2個分の計算で効率よく求められることを実証することに成功した。現在、分子間相互作用の積分要素(重なり積分、1・2電子積分)に基づいて、1次元無限系の分子結晶モデルを構築するプログラムを開発している。本プログラムを実在の分子結晶系へ応用することが課題として残っているが、当初の研究計画は概ね達成されたと考えられる。
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