公募研究
金属錯体分子が集積化したソフトクリスタルを対象に、高性能な蓄電機能の開拓やイオン伝導度のコントロールを目的として得た研究成果として、①ジスルフィド配位子を含む金属有機構造体の蓄電機能、②有機金属系イオン性液体におけるイオン伝導度スイッチング、③ポリオキソメタレート/ドープグラフェンナノ複合体の蓄電機能、を述べる。①硫黄は高容量正極として大変期待される材料であるが、還元に伴うS-S結合の開裂により、可逆な酸化還元反応の点で問題がある。ここでは、可逆なS-S結合の酸化還元反応の実現を目的に、ジスルフィド部位を含む配位子を有する金属有機構造体(DS-MOF)を用いて、その充放電特性を調べるとともに、反応機構を検討した。その結果、三次元構造をもつDS-MOFにおいてより安定なサイクル特性が見出されるとともに、S K-edge XAFSにより、充放電で可逆なS-S結合の酸化還元反応が起きていることを明らかにした。このような電気化学反応による動的共有S-S結合は、MOFのようなソフトクリスタル中においてのみ可能であり、高性能な硫黄電池を開発するうえでの大きな手掛かりを得た。②光照射により配位高分子に変化し、また熱によりもとのイオン性液体に戻る有機金属系イオン性液体を対象に、光及び熱による可逆な物性変化を検討した。その結果、光と熱により、これらのイオン伝導度と弾性を繰り返し可逆に制御することができた。③ポリオキソメタレート(POM)とグラフェンなどのナノカーボンから成るナノ複合体は、電池の電極材料として大きな容量を示すことが知られている。しかしながら、そのサイクル特性は悪く、POMのナノカーボンへの接着が課題となっていた。ここでは、硫黄やリンを含むグラフェンを新規に作成し、これとPOMをナノ複合化することによって、より安定なサイクル特性を得ることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
金属錯体が集積化した様々なソフトクリスタルの系で、固体電気化学反応を用いた新しい現象を見出すことができた。例えば、MOF中での電気化学反応による動的S-S共有結合やイオン伝導度の熱と光による可逆変化などは、学術的にも大変新しいものであり、研究が順調に進展していることを示すものである。一方で、計画していたMOFの電気化学的発光特性制御については、様々な発光性MOFを作製し、その電気化学的発光変化を試みたところ、まだ如実な変化は得られていない。しかしながら、電気化学発光特性変化観測システムを完全に立ち上げることができており、より様々なMOFを試すことで実現可能なところにまで来ており、研究は順調といえる。
ソフトクリスタルの新しい蓄電機能として、アゾ部位を有する配位子を含むMOFを用いて、光照射によるアゾ基のシストランス異性化に基づいたMOFの空孔変化を利用した光によるイオンの脱挿入制御を行い、それにより誘起される光蓄電機能を目指す。また、ドナーとアクセプターが交互に積層した電荷移動錯体系では光照射によるドナーからアクセプターへの光誘起電荷移動が可能であり、それによる起電力のチューニングなども実現する。一方で、MOFの電気化学的発光特性制御については、より様々な発光性MOFを作製し、その電気化学的性質を検討する。これまでの研究より、希土類イオンでは酸化還元反応が顕著にみられないことが分かっており、希土類以外の金属イオンを含む発光性MOFの探索と合成、電気化学反応による発光制御を検討する。また、光照射により電気化学反応をコントロールする研究として、光応答性の配位子を含むMOFを作製し、光照射による電解質イオン移動の変化などに基づいた電気化学反応の制御も行っていく。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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