フルオロアルキル鎖を有する亜鉛ポルフィリン誘導体の自己集合を精密制御し、空間並進対称性を持たない特異な分子集積構造の構築を試みた。以前の研究で、このポルフィリン誘導体が1次元に自己集合し、それが環化を経て、同心円状に多重に集積することを見出している。あたかもバウムクーヘンのような形状をしたものでありその直径は数百nm程度であった。この高次集積化においては、すでに形成されている同心円構造の界面における2次核形成が鍵となっていた。 今年度は、この2次核形成プロセスに着眼して研究を進めた。名古屋大学の内橋貴之教授との共同研究で、2次核形成プロセスのリアルタイム観察を試みた。しかしながら、モノマー分子を測定チャンバー中へ供給することが実験的に困難であった。一方で、種々の条件での実験を通じて同心円構造の分解過程であれば可視化できること気づいた。 具体的には亜鉛ポルフィリンに軸配位するジメチルアミノピリジン(DMAP)を系中に添加することによって同心円構造を分解した。非常に興味深いことに、同心円構造は内側から(すなわちバウムクーヘンでいえば、穴の空いた方向から)選択的に分解されることがわかった。同心円構造においては、内側と外側とで曲率が異なるため、安定性に差が生じているものと考えられる。すなわち、空間並進対称性を持たないという点で従来の結晶とは異なる同心円構造が、結晶とは異なる刺激応答性を有していることが示唆された。
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