人工冬眠技術の開発は、緊急患者の治療可能時間の確保、寿命の延長、宇宙開発などに利用可能であると考えられている。私たちは、自ら開発した極めて強力な先天的恐怖行動を誘発する人工匂い分子「チアゾリン類恐怖臭:Thiazoline-related fear odors (tFOs)」を嗅がせると、マウスに人工冬眠様の状態を誘導でき(匂い刺激を止めると体温が回復し正常に戻る)、同時に、脳の酸素要求性を低下させ致死的な低酸素環境での生存すら可能になるという驚くべき現象を発見した。このことは、強力な危機認識を脳に人工的に誘導することで潜在的な生命保護作用が極大化され人工冬眠状態へと到達したというモデルで説明できる。さらに、この人工冬眠状態が、三叉神経と迷走神経のTRPA1から始まり、脳幹部の三叉神経脊椎路核(spinal trigeminal tract: Sp5)と孤束核(nucleus of the solitary tract: NST)を経由し中脳の外側傍腕核(lateral parabrachial nucleus: LPB)に至る経路、これを「人工冬眠・生命保護中枢」と呼ぶ、により誘発されることを報告した。NST-LPB経路のみを人為的に活性化することで人工冬眠状態を誘導できることを解明した。さらに、この神経経路において人工冬眠状態の誘導を担う神経細胞種を同定した。これら人工冬眠誘発技術が冬眠動物であるハムスターにおいても冬眠状態を誘導できることを解明した。
|