本研究では、脊椎動物四肢を題材に、特にその形態形成過程の種間比較を軸に相同器官の表現型(形態)の多様性の研究に取り組む。種間形態の差(多様性)は発生プロセスの違いにより生じるため、種間でそのプロセスを測って比較したい。組織変形写像は、プロセスを測る一つの基準となるだろう。我々は、これまでニワトリとツメガエル四肢発生過程において、細胞のリネージトレースデータから写像を復元し、適切な時空座標系(τ-ξ系と呼ぶ)下で観測すると、両者が一致することを明らかにした。これより、種に依らない四肢固有の形態形成ダイナミクスが存在することを仮説として提案した。他方で、発生生物学・進化学では組織内の各場所には遺伝子発現パタンにより決まる「位置価」が与えられ、細胞はそれにより分化等の運命決定を行うとされる。遺伝子発現の時空間パタンをτ-ξ系で観測することで、相同器官間で発現ダイナミクスが保存された遺伝子群と、種固有のダイナミクスを示す遺伝子群とに客観的に分類できるのではないかという着想のもと、研究を進めてきた。
2021年度は、前年度から引き続きアフリカツメガエルとニワトリ後肢発生過程における空間トランスクリプトーム解析を進めた。前年度に問題となった、3’UTR側の配列が登録されていない遺伝子に関しては2種ともに発生したが、その対応方法を概ね確立することができた。トランスクリプトーム解析に先駆けて、四肢発生過程における代表的なパターニング遺伝子群に関してRNAscope解析を行い、τ-ξ系における発現パタンが初期発生過程において保存されていることを確認した。当初の研究計画よりも遅れているが、とるべきデータの大半は揃ったので、本研究終了後も解析を継続し、相同器官間で保存される遺伝子群と種固有の発現パタンを示す遺伝子群を明らかにし、論文にまとめる計画である。
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