公募研究
がんの腫瘍内ダイバーシティ(多様性)はがん難治性の一因であり、それを生み出すがんの進化のダイナミクスを理解することは臨床的にも重要である。われわれは大腸発癌から進行癌への過程で多様性を創出する機構を明らかにするために、Microsatellite stable (MSS)大腸癌の早期癌と進行癌を、1つの腫瘍から複数箇所サンプリングするMultiregional analysis (MRA)の手法を用いて包括的なゲノム解析研究を行った。その結果、早期癌ではダーウインの自然選択を経て進化しているのに対し、進行癌ではアームレベルのコピー数増幅を契機に中立な進化へと様式が推移していることを明らかにした。一つの腫瘍内でクローンが置かれた状況に応じて、進化様式を推移させて強靱さを確保しようとする“進化シフト”を初めて明らかにした (Uchi R., et al. PLoS Genet. 2016; Saito T., Nat Commun.2018)。またMSS大腸がんは早期大腸癌と進行大腸がんにおいて異なる進化様式から発生する腫瘍内多様性が存在することをシミュレーションで明らかにした。今年度はMSS大腸がんのconsensus molecular subtype (CMS)の4つのサブタイプのうちMSI-H大腸がんについてゲノム進化を解析し、多領域データに加え腫瘍免疫微小環境データも取得する。MSI-H腫瘍ではがん進化の過程において、ゲノム変異がどれくらいの頻度でどの段階で獲得するかは明らかにされていない。今年度われわれはMSI-H大腸癌の網羅的なゲノム進化系統樹・発現解析を行い、MSI-H大腸癌における抗原提示に関わる遺伝子変異の頻度、およびICI治療抵抗性の原因、進化モデルを創出する。
2: おおむね順調に進展している
これまでの進化に関して、とりまとめをレビューとして執筆し関連の雑誌に採択された(Niida A. et al. J Human Genet in press)。さらに、今回明らかにしつつあるMSI-Hに関してはすべての実験を終えて現在、鋭意in silico解析を進めている。その結果(獲得)免疫応答がどのタイミングにあるのか?明らかにできつつありtop journalに投稿予定である。
本研究では、同様の進化解析のアプローチで、MSI-H大腸癌の進化に関わる免疫の選択圧の影響を明らかにし、ICIの治療抵抗性の原因を探求する。我々はThe Cancer Genome Atlas(TCGA)のデータと公開されたデータ(Sato K., et al. Clin Cancer Res. 2018; Vincent J., et al. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2018)を収集し、MSI-H大腸癌246例とMSS大腸癌371例を網羅的にゲノム解析・発現解析を行った。さらに、MSI-H大腸癌6腫瘍、MSS大腸癌6腫瘍を、MRAの手法を用いて前向きにサンプリングし、遺伝子の変異と発現の腫瘍内不均一性の検討および進化解析を行う。さらに、同サンプルの抽出したRNAをT cell receptor sequence(TCR-seq)によるT細胞受容体の多様性を解析し、宿主側のT細胞と大腸癌の腫瘍免疫応答について検討する。MSI-H腫瘍が抗原提示に関わる遺伝子変異を獲得するタイミングと、それに対応した免疫の選択圧の変化およびT細胞受容体の多様性の広がりを、数理モデルを構築して明らかにする。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (36件)
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