細胞は様々な外来分子の侵入を検知し,それらを排除するために選択的オートファジー機構を使用する。この選択的オートファジー機構は,病原体のような異物だけでなく形質転換のために必要な核酸導入に対しても大きな障害となっている。我々はこれまでにオートファジーレセプターp62に着目し,その欠損が核酸導入効率の著しい促進効果を示し,このp62の機能制御にp62のリン酸化が重要である事を明らかにしている。本研究では, 核酸の認識に関与するp62複合体を同定することを通じて異物に対する細胞の認識・応答機構の解明のみならず,核酸の導入法の確立やウイルスの感染防御における新たな方法論を確立させることを目的としている。本年度は遺伝子導入効率が極めて高いHEK293細胞ではp62による核酸の分解機能はどのように制御されているのかを解析した。その結果p62は充分なタンパク量が存在し遺伝子導入時には活性化状態である高リン酸化状態であることが判明した。そのため何らかの因子の相互作用によって阻害されていると考え相互作用因子を生化学的に精製し同定したところ、HEK293のトランスフォームに関わるアデノウイルス因子の強い結合が明らかとなった。この因子の過剰発現はMEF細胞において強い遺伝子導入促進効果を示し、p62とこの因子の相互作用阻害はHEK293細胞での遺伝子導入効率の低下を誘発した。これらの結果はp62の機能阻害は遺伝子導入効率を制御できるのみならず、アデノウイルスの増殖にも関わることを意味している。これらの相互作用の分子機構の解明は、アデノウイルスの特効薬の開発や、アデノウイルスを応用した腫瘍溶解ウイルスの感染制御を可能にすると考えられる。
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