異性化する有機分子を集積化し光エネルギーを力学的エネルギーに変換する試みが"光メカニカル機構"として注目されている。本研究では従来の研究例とは異なるアプローチとして、ナノ層状無機化合物とアゾベンゼン誘導体からなる積層ハイブリッド化合物を開発し"光メカニカル機構"の実現を目指した。これまでに片末端に炭化フッ素鎖を有するカチオン型アルキルアゾベンゼン誘導体(以下C3F-Azo)を用いて実際に光で形状変化する化合物の作成に成功してきた。それを受けて事例展開、機構解明、特性向上を目指した。 本年度は異なる材料を用いた化合物への事例展開に関する検討を行い、新規光応答性有機ゲスト分子として両末端に炭化フッ素鎖を有するカチオン型アルキルアゾベンゼン誘導体(以下C3F-Azo-CnFと略す)の開発と無機ホスト材料であるニオブ酸(Nb6017)との複合化に成功した。また、炭化フッ素鎖の効果を確認するために炭化フッ素鎖を有しないゲスト分子(以下C3H-Azo)の新規合成とニオブ酸との複合体も作製した。これらの光応答を観測した結果、従来のC3F-Azoと同様にC3F-Azo-CnFとニオブ酸を原料とした積層化合物において光異性化に伴う層間伸縮の観測に成功した。一方C3H-Azo/ニオブ酸複合体では光異性化に伴う層間伸縮が観測されないことを確認した。これにより炭化フッ素鎖の役割についての知見が得られ機構解明と性能向上のための指針が得られた。 さらに光応答の能動的な制御に関する検討も行った。これまでの検討結果からの予想をもとにC3F-Azo-CnFとニオブ酸を用いてゲスト分子導入量を制御して配向角を調整し、原料は同じでありながら真逆の伸縮方向を持つ複合体の作成に成功した。同一の原料から作成条件の調整で真逆の挙動を示す希少な例として非常に興味ある材料を創生できたといえる。
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