本年度は、前年度に発見したEz偏光による光誘起ポリマー移動のフィルム膜厚依存性のメカニズム解明を目的として、フィルム上部の屈折率操作による光勾配力の影響を調べ、フィルム内部での光強度分布を比較することで、そのメカニズムを解明した。具体的には、グリセリン(n=1.47)をフィルム表面に滴下した場合と、滴下しない場合(空気層、n=1.0)、それぞれの場合でのフィルム膜厚依存性を調べた。グリセリンをフィルム表面に滴下しない場合、フィルム膜厚が薄い場合(18nm)では凹形状になるのに対し、フィルム膜厚が厚い場合(60nm)では凸形状になることが分かった。グリセリンを滴下すると、薄い膜厚のフィルムの場合、凸形状が形成され、厚いフィルムの場合、グリセリンを滴下しない場合と比べ凸形状の高さが増幅(33nm→108nm)されることを新たに発見した。次に、カバーガラス/フィルム/空気(orグリセリン)の3層構造による多重反射及びフィルムの吸収を考慮に入れた集光スポットの電場強度分布を計算した。グリセリンを滴下しない場合、滴下した場合と比べ、フィルム上部層でのEz電場強度の勾配が大きいので、光勾配力によるダウンフォースが強く働いていることが分かった。フィルムが薄い場合では、フィルム内部の電場強度勾配に由来する光誘起異方流動性によってアッパーフォースが働くが、光勾配力によるダウンフォースの方が強いため、フィルムの中心部が凹んだと考えられる。フィルムが厚い場合には、光誘起異方流動性によるアッパーフォースが光勾配力によるダウンフォースより強いので、フィルムの中心部は凸形状になったと考えられる。グリセリンを滴下した場合、フィルムとグリセリンとの屈折率差が十分小さいので、光勾配力はほとんど作用しない。そのため、フィルムの膜厚に関係なく、光誘起異方流動性によるアッパーフォースのみが作用するので、どの膜厚のフィルムにおいても中心部は凸形状になったと考えられる。また、フィルムが厚い場合には、グリセリンを滴下しない場合と比べ、光勾配力によるダウンフォースがない分、凸形状の高さが増幅されたと考えられる。
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