研究概要 |
本研究は理論およびシミュレーション計算科学を活用し、実験との融合によってジアリールエテンの極限性能発見につながる解析結果を提供することを目的とした。フォトクロミック化合物の新規用途開発として、メモリー素子など既に試された用途でなく、隠れた特性を引き出すのは基礎研究であり計算科学である。 最も大きな成果は、昨年から継続して、三重項の介在を計算科学のレベルで確認したことである。色素結合の系、遷移金属結合の系という双方について、三重項を経てフォトクロミック反応が起こるという仮説の検証を進め、高精度計算とスピン軌道相互作用の見積もりによって、もはや疑いない処に至った。ただし、さまざまな理由から実験的に三重項が観測できないことが最終論文にまとめるまでに、難関として横たわっている。系間交差を可能にする要因として、重原子でなく、蛍光色素にリンクした共役系の精妙な幾何学的適合性が計算から浮かび上がった。さらにFe,Ru錯体についても、三重項が関与して反応が進行していることを確認した。異なる遷移金属原子間のスピン軌道相互作用の正確な評価は困難を極めるが、それなくしても三重項と一重項のポテンシャル面での位置関係によって明確に理解された。磁性に深く関与した生命科学関連の応用用途を提案できるであろう。 加えて、実験研究を加速した貢献として、宮坂らが観測している量子ビートQBの解析、高励起状態からの反応性増加の理論的説明、に関して本年は考察を進めた。最後に、Pt系が示すフォトクロミック反応のメカニズム解析については、計算結果というより、計算の立場から行った実験示唆(ESRの再測定)によって進展が見られた。ここでもスピンが深く関与している。これまで知られたフォトクロミック機構とは全く違うメカニズムが明らかになるであろう。
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