公募研究
現代の時間生物学の基盤を創ったユルゲン・アショフ(故)は、ヒトの体内には自律的に24時間周期で振動する時計、「概日時計」の存在を発見し、体温と睡眠・覚醒の概日リズムが乖離する(異なる周期を示す)事を報告した。これを内的脱同調と呼ぶ。その中で、ヒトの時間感覚は睡眠・覚醒のリズムに影響を受け、体温リズムには影響を受けないことを提示した。つまり、ヒトの“時間”は体温調節系と睡眠・覚醒調節系の二種類存在し、それぞれ異なるメカニズムで生体の時間が調節されていると言える。哺乳類の24時間周期の概日リズムは、視床下部の視交叉上核により調節されていることが知られている。しかし、さまざまな生理機能の時間的調節が、どの経路を介して行われているかは、今日に至るまでほとんど理解が進んでいなかった。これらの背景から、申請者は視交叉上核からの出力経路の探索を進め、最近視交叉上核と睡眠・覚醒を繋ぐ、新しい神経回路を同定し報告した (Ono et al., 2020 Science Advances)。本研究では視交叉上核を起点とする、睡眠・覚醒リズムと体温リズム調節に関わる神経経路を明らかにし、ヒトが持つ異なる二つの時間の存在意義に迫る。これまで室傍核のCRF神経が概日時計による覚醒調節に関わるハブ細胞であることを報告してきたが、CRF神経の概日時計がこの調節に関与しているかどうかは不明であった。そこで、CRF神経特異的に時計遺伝子を欠損させ睡眠覚醒変化を検証したところ、変化は認められなかった。概日リズムは、時計遺伝子の転写翻訳を介したフィードバックループにより駆動していると考えられている。一方、細胞質のイベントにも概日リズムが認められる。今年度は、新たに作成した発光cAMPプローブを用い視交叉上核のcAMPが概日リズムを示す事、さらにそのリズムは神経ネットワークにより駆動していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は論文を1報発表したこと、さらに視交叉上核のcAMPの機能的意義を行動レベルで明らかにできたこと。
神経回路の機能を明らかにするためには、どの伝達物質がどのタイミングで放出され、その結果神経活動が変化しているかを理解する事が重要な点となる。そこで、ウイルスベクターを用いたin vivoゲノム編集を用いて、特定の細胞の特定遺伝子を欠損させ、神経回路に決定的な分子を同定する。また、実際の伝達物質の分泌が、どのように下流細胞の活動に影響を与えているかを理解する為、Genetically encoded GPCR Activation-Based (GRAB) センサーを導入する(Dr. Yulongとの共同研究)。視交叉上核の主な神経ペプチドであるVIP, AVPのGRABセンサーを用い、光を用いてペプチド分泌と神経活動を同時にイメージングし、機能的神経回路の動作原理を理解する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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