新石器時代晩期から初期王朝期の長城地帯と中原地域との地域間関係解明の基礎的研究として、土器の広域編年を確立し、土器動態に反映される多様な文化交流を解明することを目的として研究をおこなった。本年度は、発掘調査報告書や学術雑誌の簡報などから出土土器資料の情報収集とデータベース作成を再開するとともに、2024年2月末から3月にかけて中国に渡航し、陝西省・河北省・北京市・河南省などの研究機関において資料調査をおこなった。土器をはじめとした考古資料を実見し、報告書からは十分に得られないサイズ感や製作技術、焼成・色調の情報を得ることができた。これらの観察から、型式学的枠組みの検証をおこなった。研究成果の一つとして、これまで収集してきた土器のデータに基づき新石器時代末期(龍山文化期)から商文化期にかけての土器のサイズバリエーションの地域差を整理し、そこから地域間の土器伝播の背景となる人やモノ・情報の動きを検討した。この成果は、2024年3月刊行の論文集に寄稿した。また、これまで主に土器のデータ収集をおこなってきたが、地域間の関係を解明するために土器以外の他の物質文化の動態についても検討をおこなった。特に、近年、最古級の事例の発見と報告が相次いでいる瓦に関して、新石器時代から西周初期の瓦の事例についてデータを整理し、その起源と系譜について検討した。瓦は現在の資料からみて黄土高原にその起源が求められる。これらの瓦の展開と、最古級の瓦を有する遺跡の評価は、中原地域と長城地帯との地域間関係を理解する上で非常に重要であると考えた。本年度が公募研究の最終年度にあたるが、当初の計画と比べて中国における資料調査は十分におこなうことができなかった。今後も分析を継続し、A01班をはじめとした当該領域研究のメンバーらと共同して、広域編年の構築やデータベース構築に貢献していきたい。
|