本研究は、終止コドンを超えて3’UTRまで翻訳が継続する「ストップコドンリードスルー」に着目した。申請者はショウジョウバエ神経細胞でタンパク質翻訳をゲノムワイドにプロファイルすることで、リードスルーが生じている遺伝子を166個同定した。これらのリードスルータンパク質について、領域内共同研究により、AIを用いた構造予測を行ったところ、その大部分において非ドメイン構造をとることが判明した。さらに、トランスジェニックレポーターを作成し、終止コドンで翻訳終結したタンパク質とリードスルーしたタンパク質を異なる蛍光波長で標識した。その結果、複数のタンパク質についてリードスルーによって細胞内局在が変化することが判明した。特に、核内のタンパク質がリードスルーによって核外に移行したり、リードスルーによって液-液層分離のような顆粒状構造を形成するようになるなど、興味深いタンパク質の挙動の変化が観察された。これは、リードスルーによって局在化ペプチドが付加されたり、逆に内在性のそういったペプチドを阻害するような効果があったことを示唆する。さらに、また、終止コドン付近でゲノム編集を行うことでリードスルー変異体を作成し、その動物行動における機能解析を行った。その結果、あるタンパク質について、リードスルーが正常な記憶学習行動に必須の役割を果たしていることが判明した。以上本研究は、神経細胞におけるリードスルーの全貌と、その生体内での分子機能の解明を行った。
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