研究概要 |
雌雄同体である原索動物マボヤは厳格な自家不和合性をもち,さらに異個体由来の体腔細胞をin vitroで混合すると,フェノールオキシダーゼ(PO)放出,液胞放出,凝集などを起こす接触反応(Contact Reaction: CR)が起こすことが知られている(Fuke 1980)。このようにマボヤは「配偶子におけるアロ認識機構」及び「体細胞におけるアロ認識機構」を直接比較することが可能な極めて特徴的な実験動物である.研究代表者はすでにマボヤの体腔細胞でCRを指標にアロ認識分子(自己マーカー分子)の同定を2次元電気泳動により試み,異個体に反応してCRする個体間で異なり,CRしない個体間で共通な膜タンパク質群(分子量100kDaでpI 7付近)を自己マーカー候補分子としてすでに見いだしている.平成22年度は,見いだした蛋白質をエドマン分解により部分アミノ酸配列を決定した後,PCRによりこの自己マーカー候補分子の全アミノ酸配列を決定した。ゲノムデータベースのBLAST検索により,この分子は広く無脊椎動物に存在することがわかったが,どの生物においてもその機能は未だ不明であった。さらに,CR誘導抗体によるWestern blottingにより,この抗体の抗原が自己マーカー候補分子と共通であることを明らかにした。一方,個体差の原因を探るために,個体ごとに自己マーカー候補分子のアミノ酸配列を決定したが,大きな差が見られなかったことから,アミノ酸配列以外の糖鎖などの翻訳後修飾による構造変化が個体差を生み出しているという予想に至った。現在は,個体差を生み出している標的構造を糖鎖と考え,その構造を決定することを目指している。
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