研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04466
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今城 周作 東京大学, 物性研究所, 特任助教 (30825352)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超伝導 / 有機伝導体 / 強相関電子系 / 超音波測定 / FFLO状態 |
研究実績の概要 |
本研究課題が属する新学術領域では、近年注目を集めている「量子液晶」という概念の元で量子物性を統一的に整理・理解することを目標としている。本課題では、特にFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinniko (FFLO) 状態と呼ばれる電子対液晶状態と考えられている超伝導状態の量子液晶性の検証を行うことを目的としている。この検証の達成にはFFLO状態の実現、およびそのFFLO状態での空間異方性の検出が必要とされ、本課題では有機超伝導体の純良単結晶に対して強磁場超音波測定によってアプローチをする方法を考案した。これらの目的・手法を考えると、本課題は「パルス強磁場中磁場角度精密制御下での有機物の超音波測定」の実現によって達成されるため、初年度である2022度はまず超音波の測定面での開発・環境整備を中心とした。 パルス強磁場中での高速超音波測定に向けて電子機器の購入と装置の整備を行い、数十ミリ秒のパルス磁場中でも十分なデータ点が収集可能なシステムを構築した。脆弱な有機物を用いた測定を実施するために、通常より薄く小さい圧電素子の購入し、様々な接着剤を試験し、また、試料角度の精密変化を行うために極細同軸線を用いた試料回転機構プローブをすることで本課題に必要な測定環境を完成させた。 この測定系を用いてFFLO候補物質であるκ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2の測定を行い、21テスラ以上、4ケルビン以下の強磁場低温領域でFFLO超伝導相を確認した。このFFLO相内部のみで音波の変位方向に依存した異方性を検出することに成功し、この結果からFFLO状態による空間変調性が作る量子液晶性の議論を行った(Nature Communications 13, 5590 (2022).)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、初年度である2022年度は測定面での開発・環境整備を主体とする予定としていた。新規に購入した超音波測定用の圧電素子の性能評価とオシロスコープの動作確認を行い、同時に測定プローブや測定プログラムの見直しを行い、基本的な超音波測定環境を構築した。 このシステムを用い、超音波測定で最も問題となる試料と圧電素子の接着に関する技術的改善に挑戦し、特定の接着剤を使用することで有機物のような脆弱性の高い物質であっても試料の破損率を抑えて極低温まで音速測定することに成功した。これらの改善によって、実際にκ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2をはじめとした複数の有機超伝導体の低温・強磁場の弾性特性の測定を行った。 その結果、本研究の目的であるFFLO状態に起因すると考えられる量子液晶性を弾性応答の異方性から議論することに成功し、論文として出版することができたため、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの開発・測定により、本課題での研究目標であるFFLO状態における異方性の議論が可能であることがわかってきた。現在のところはまだ1つのFFLO候補物質のみしか測定に成功していないが、今後は物質間比較を行うために他のFFLO候補物質の測定を行う。候補としては類似塩であるκ-Brと呼ばれる物質やβ"-GaPhNO2などの有機物質や、近年注目されているFeSeなどの無機物質を考えている。 また、均一断面が得られにくい有機物の測定を考えて、更なる測定環境改善のために接着剤の選定の継続だけでなく、単一圧電素子での反射の音波測定をディレクショナルカプラ等の回路部品を導入して行う。
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