研究実績の概要 |
我々はこれまで、ヒトiPS細胞を起点とした試験管内始原生殖細胞誘導分化系を報告してきた(Yamashiro et al., 2020)。一方、女性細胞株(XX型)群では誘導効率における株間差異が特に大きく、また顕著な株間エピゲノム多様性が観察されていた(Yokobayashi et al., 2017, 2022、未発表データ)。本研究では、これらのエピゲノム多様性(不均一性)が始原生殖細胞様細胞への分化能や、さらにその分化過程で観察されるゲノムワイドなエピゲノム変化に与える影響を明らかにすることを目的とする。 令和5年度は、複数の女性ヒトiPS細胞株から誘導した卵原細胞様細胞を用いてシングルセルトランスクリプトーム解析を行った。既報の生体内ヒト生殖細胞データと照合した結果、体細胞増殖期から減数分裂前期への移行期様の遺伝子発現を示す細胞集団が認められ、細胞株による分化進行度の差は示唆されたものの、卵原細胞分化が進行していることが確認された。次に、エピゲノムリプログラミングの進行を評価するためゲノムワイドなDNAメチル化解析を行ったところ、誘導した卵原細胞様細胞では、生体内胎齢7週のヒト生殖細胞と類似したメチル化プロファイル(脱メチル化の進行)が観察された。同時に、脱メチル化進行度のばらつきや遅延も観察されたが、ゲノム配列特性に加えてiPS細胞のエピゲノム状態(多様性)の影響が観察された。さらに、ロングリードシーケンスデータを用いてX染色体のアリル識別を行い、卵原細胞分化に伴うX染色体再活性化の評価を行った。以上の解析により、ヒト生殖系列で誘導されるエピゲノムリプログラミングの理解につながる分子機序の知見を得ることができた。これらの研究は北村彩佳博士研究員(京都大学高等研究院)、薮田幸宏助教(京都大学高等研究院)の協力を得て実施した。
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