研究実績の概要 |
申請者はまず,聴覚情報(災害や自然音)の当事者化に必要な認知基盤(情動配分)を検証した.その結果,共感,同情,興味,称賛,郷愁のような社会的情動が,当事者性を強めるために重要な情動成分である可能性が示唆された. さらに申請者は,研究計画班の熊谷,綾屋らとともに,研究者(定型発達者)が実験参加者(定型発達者や自閉スペクトラム症者)と会話している際の音声を調べた(大黒,熊谷,綾屋,長井, 2020).音声解析手法は,申請者によって新たに開発した音のリズム階層を可視化するモデルを使用した.これにより,プロソディ,音節,音素といった,音声リズムの階層構造を可視化することができた.研究の結果,実験参加者(対話者)の発話特性に気づいた研究者は,自身の発話を,自閉スペクトラム症者を含む対話者の発話特性に似せて会話していることがわかった(Daikoku, Ayaya, Kumagaya, Nagai, 2023).当事者研究では,少数派側が多数派の法則性の不一致に気づくことが重要と示されてきた(熊谷, 2020).申請者の研究は,多数派側も少数派の法則性との不一致に「気づく」ことで,自発的に相手の特性に合わせるといった,ある種の当事者化行動を示している.この気づきを促す方法として先行研究では,自己や他者の内受容感覚を理解し「共感」を高めることが大切だと示唆している(Imafuku et al., 2020; Fikushima et al., 2011).本課題の他の研究でも,当事者化を起こす要素として共感が重要であることを示した(Daikoku, under rev).これらの結果を受け,申請者は,触覚を通して内受容感覚知覚を高めるデバイスを開発した.
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