光合成の初期過程である光収穫ー電荷分離反応を人工系で駆動させ、光ー水素変換システム(光エネルギー変換人工オルガネラ)の構築を目指し、高エネルギー物質であるヒドロキノンを脂質二分子膜中に高濃度蓄積する事を目指す。今年度は光収穫能の増強を目的とし、(1)光重合したリン脂質(Diyne-PC)を光収穫層として、脂質膜表面でのエネルギー移動系の構築、(2)脂質膜中に再構成した光合成光収穫系複合体1ー反応中心複合体(LH1-RC)の光触媒的キノン還元を行った。 (1)では、光重合した脂質(Poly-Diyne-PC)がリポソーム膜および界面活性剤で可溶化された状態でも可視領域に発光帯を有することが確認できた。蛍光色素を結合した脂質分子をアクセプターとしてPoly-Diyne-PC膜中に組み込んだところ、Poly-Diyne-PCから蛍光色素への明瞭なエネルギー移動が認められた。このことから、蛍光色素を経由したPoly-Diyne-PCから光合成光収穫系へのエネルギー移動系が構築できる大きな手がかりが得られた。 (2)では、脂質膜中に再構成したLH1-RCによるユビキノン10(UQ10)の光還元を行なった。還元型シトクロムc(cyt c2+)を電子源として光照射することにより、還元型UQ10(ヒドロキノン)の生成が確認でき、天然での脂質二分子膜環境がUQ10の還元には有効であることが明らかとなった。 また、人工色素により光収穫機能を増強させた光収穫系複合体(LH2)とLH1-RCに対して、光収穫系がどの程度RCでの電荷分離反応と機能的に連動しているのかを、LH1-RCによる光電流計測から定量的に明らかにすることに成功し、人工色素を結合したLH1-RCで天然の機能に匹敵する光収穫能を有する事を見出した。
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