外界との相互作用のなかで生存に適した行動を選択することは、脳神経系の最も重要な機能である。本研究ではショウジョウバエ幼虫において、行動選択時に活動する細胞を系統的にプロファイリングすることで適応機能を生む回路遷移の仕組みを探った。このため、幼虫が状況に応じて前進と後退という逆方向の移動運動を切り替える系をモデルとした以下の2つの計画を進めた。 (計画1)活動依存的標識と遺伝子プロファイリングによる同定:単離標本においてWaveの光活性化により前進、後退運動が起こる際に活動する細胞を、活動依存的に色変換する蛍光タンパク質CaMPARI2を用いて標識、単離し、単一細胞RNA-seq解析により各細胞の遺伝子プロファイルを得、さらに前進/後退間の比較解析により、それぞれの行動において選択的に活動する細胞を同定することを目指した。今年度は、低温プロテアーゼを用いて脳組織を単細胞に解離するプロトコルを確立した。また小規模な予備的実験においてセルソーターを用いた赤色標識細胞の分離にも成功した。今後、規模を拡大した標識細胞の分離を行いRNA-seq解析へと進める予定である。 (計画2)系統的カルシウムイメージングと膨張試料顕微鏡法による同定:疎らな発現を誘導する36 個のGAL4 系統を用いて様々な神経細胞のサブセットでカルシウムプローブGCaMPを発現し、カルシウムイメージングを行うことで、前進あるいは後退時に選択的に活動する細胞を検索した。その結果、前進運動で選択的に活動する神経細胞を見つけることができたが、その後の解析により、この標的神経細胞は、既知の前進運動選択的な細胞A18b3(CLI1)であることがわかった。この結果は、本アプローチの有効性を示すもので、今後さらに系統探索を進めることで新規細胞を同定することができると期待される。
|