特定ゲノム領域を単離して生化学的解析を行うための新規方法論である挿入的クロマチン免疫沈降法 (insertional chromatin immunoprecipitation: iChIP) を開発した。本研究班の支援を受けて、まず、ゲノム上の異なった領域間の「しきり」として、エンハンサー遮断機能及び位置効果抑制能を持つインスレーターに結合する新規蛋白質及びRNAの同定に成功した。さらに、iChIP法の最適化に取り組み、第二世代のタグ付きLexA蛋白質3xFNLDDを開発した。また、B細胞分化誘導とその維持に重要な役割を果たしているPax5転写因子遺伝子の発現調節に関わる制御領域・結合RNA・結合蛋白質の網羅的同定とその機能解析を行った。具体的には、ニワトリのB細胞株DT40細胞のPax5遺伝子の転写開始点近傍にLexAの認識配列を挿入した細胞を樹立した。この細胞に、3xFNLDDを発現した。この細胞 (3xFNLDD: LexA-Pax5 (B)) でのPax5蛋白・mRNAの発現は野生型DT40細胞と同等であり、この細胞を用いて、iChIP法により、Pax5遺伝子転写開始点近傍と相互作用している蛋白質・ゲノム領域・RNAを同定した。このうち、Pax5遺伝子転写開始点近傍と相互作用しているある核内蛋白質の発現がB細胞特異的であり、この蛋白質の発現を低下させるとPax5の発現が低下することを示し、この蛋白質がPax5遺伝子発現調節に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、iChIP-Seq解析の結果から、Pax5遺伝子転写開始点近傍が、多数の染色体内・染色体間相互作用をしていることを明らかにした。
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