研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
23H04009
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
林 航平 仙台高等専門学校, 総合工学科, 講師 (20771207)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ダークマター / 銀河動力学 / 銀河系矮小銀河 |
研究実績の概要 |
宇宙の物質密度の8割以上はダークマターと呼ばれる未知の物質に支配されている。この正体を解明することは現代物理学において最大の問題の1つとなっている。本研究では天文学的観測の側面からこの問題に取り組むアプローチの1つである、銀河系矮小楕円体銀河のダークマター分布推定に焦点を当てる。なぜなら、矮小楕円体銀河のような小スケールでのダークマター分布は、ダークマター理論モデルによってその中心構造が大きく異なることが予言されており、実際の矮小楕円体銀河ダークマター分布を詳細に調べることがダークマター正体解明への鍵となるからである。しかし、矮小楕円体銀河ダークマター分布と恒星の速度分散の非等方性には強い縮退関係があり、この縮退を解くことがダークマター分布決定の重要なステップである。 本年度は、銀河系矮小楕円体銀河の視線速度分布に対する高次モーメントを取り入れた動力学解析を構築し、完成させた。またそのモデルの振る舞いやダークマター分布決定への有効性について、銀河系矮小楕円体銀河の模擬データを用いて徹底的に議論した。その結果、高次モーメントを取り入れた動力学解析によって恒星の速度分散の非等方性に強い制限を与えることができることがわかった。我々の構築した新たな動力学解析モデルによって、ダークマター分布決定の懸念材料であった縮退を解くことができ、その有効性を示すことができた。本研究は学術論文としてすでに投稿しており、現在査読プロセスを経ている段階である。 すばる超広視野多天体分光器(PFS)を見据えた模擬データに関しては、引き続きすばるPFS銀河考古学サイエンスワーキンググループのメンバーと共に遂行している。本年度は観測ターゲット天体の1つであるUrsa Minor矮小楕円体銀河の観測データを再現する模擬データに集中して作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銀河系矮小楕円体銀河の視線速度分布に対する高次モーメントを取り入れた動力学解析モデルを構築し、そのモデルを用いた模擬データ解析を行い、結果をまとめたものを学術論文として投稿することができた。 さらに、より現実的な不定性を考慮した動力学解析への拡張に着手している。また、現在注目されているダークマター理論モデルである超軽量ダークマターや自己相互作用するダークマターに対して、構築した動力学解析モデルの適用を進めている。この適用によって、それぞれのダークマター理論モデルに対する観測的制限を与えることができる。 一方で模擬データ生成についても、PFS銀河考古学サイエンスワーキンググループのメンバーと継続的に議論を重ねており、1つの銀河系矮小楕円体銀河に関して完成に近い状態となっている。来年度にはこの模擬データを用いた本格的な解析が可能となり、すばるPFSを用いた銀河系矮小楕円体銀河サーベイによって、矮小楕円体銀河のダークマター密度分布の決定精度について議論することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度構築した動力学解析モデルを更に発展させ、超軽量ダークマターや自己相互作用するダークマターモデルへ適用したモデル構築を行う。また、矮小楕円体銀河のメンバー星以外の星が混入する場合や視線速度の観測誤差を統計的に考慮したモデルを構築する。これを実際の銀河系矮小楕円体銀河の観測データに適用することで、既存の観測データでダークマター分布への制限がどの程度強くなるのか、もしくは弱くなるのかを調べる。 一方、すばるPFS観測を見据えた模擬データ生成及び模擬観測に関しては、引き続きPFS銀河考古学サイエンスワーキンググループのメンバーと議論し、PFS観測サーベイにてメインターゲットとなっている6つの矮小楕円体銀河に対応する模擬データを完成させる。その後PFSの性能や観測計画に沿った模擬観測を行い、構築した動力学解析モデルを用いることで、PFS観測によって銀河系矮小楕円体銀河のダークマター分布の決定精度がどの程度改善するのか定量的に議論する。
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