研究実績の概要 |
本研究では思春期世代の子どもを対象に以下の3つの仮説を検証する。仮説1:新規他者との関係形成の機会の多寡である関係流動性(Thomson et al.,2018)が高い社会環境で暮らす子どもほど一般的信頼が高い。仮説2:関係流動性と一般的信頼の関連を唾液中のオキシトシン濃度、およびオキシトシン受容体遺伝子のDNAメチル化が媒介効果を持つ。仮説3:経済状況が良い家庭で暮らす子どもほど関係流動性や一般的信頼が高い。以上の仮説を検証するために2023年度は6月から9月にかけて思春期参加者173名(女子 = 80名; 平均年齢12.2歳、9歳から16歳)のリクルートを行い、10月から2024年3月に行動実験を実施した。実験では関係流動性、一般的信頼(山岸, 1997)、および貧困に関する指標を収集するとともに、子どもの唾液を採取した。分析の結果、関係流動性が高い社会環境で暮らす子どもほど一般的信頼が高いこと、世帯収入が高い家庭の子どもほど一般的信頼が高いこと、世帯収入と関係流動性の関連は見られないことが明らかになった。これらの結果は仮説1を支持し、仮説3は部分的に支持する結果である。現在は、世帯収入以外の経済状況の指標と関係流動性、および一般的信頼の関連を分析しているところである。また採取した唾液は現在、オキシトシン濃度の測定を行なっており、オキシトシン受容体遺伝子のDNAメチル化も8月までには解析を終了し、関係流動性、および一般的信頼との関連を明らかにする。
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