研究実績の概要 |
我々が開発したtgモデルマウスを用いてP123Hβsynに対するワクチン療法を計画する。これまで、シヌクレイノパチーの治療に関しては、αsyn tg マウスをモデルにしたワクチン・抗体療法が米国より報告されているが (Masliah et al. Neuron 2005, PloS One 2011) 、他の研究グループからの報告は皆無であり、その有効性は必ずしも明らかでない。我々の新規モデルマウスを使い、さらに、αsynのみならず、βsynを同時に標的にする方法は、何らかの新しい知見を提供してこの分野の進展に貢献できないかと考える。 以前より弧発性のパーキンソン病やDLBさらにHallervordern-Spatz病の剖検脳の神経軸索病変においてβSやγシヌクレイン (γS) の異常な蓄積が認められたという報告 (Galvin et al, PNAS 1999, Galvin et al, Am J Pathol. 2000) があることから、これら野生型のβSやγSが神経変性に関与する可能性が示唆される。もし、野生型のβSにおいて加齢、その他の可能性による病的な変化があり、P123HβSと同様にβSに独自の病的作用があるとするならば、このことは、病態機序の解明のみならず、治療開発戦略上も重要であろう (Hashimoto and La Spada, Future Neurol. 2012)。すなわち、従来のαSやLRRK2のみを標的にした治療法では不十分であり、βSやγSを考慮した新しい治療開発が必要になるだろう (e.g. α/β/γ syn三種混合ワクチンなど)。このような背景で、P123HβS tgマウスに対するβS抗体 (ワクチン) 治療の解析、開発は興味深いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
Tgマウスの準備、及びワクチン(リコンビナント蛋白)の接種 βSynP123H tgマウスは約5ヶ月齢前後より大脳皮質や海馬にP123Hβsyn が神経軸索へのドット状に蓄積し、周辺にはアストロサイトの活性化が観察される。これらの組織病変に一致して、ほぼ同時期より、モーリス水迷路試験では空間認知記憶の低下が観察される。他方、βsyn tgマウスや野生型マウスにはそのような所見はない (Fujita et al, Nature Communications. 2010)。これらのことより、 ワクチンの効果は5ヶ月齢において判定できるように計画する。誕生したマウスは、genotypingの後、活動量、食事量、水分摂取量、体重、及び生存率について定期的にチェックしながら、維持する。2ヶ月齢に達した時点でこれらのマウス(雄マウス、n=15~20)に対して50μgのリコンビナント蛋白とアジュバントの混成物を調整し、経皮的に接種する。リコンビナントP123Hβsyn 蛋白は、大腸菌の系で作製し (ProEx-1 system, Hashimoto et al Brain Res 1998)、エンドトキシンを除去処理しておく。対照群のマウスには生食とアジュバントの混成物を接種する。いずれの群のマウスもさらに3週間おきに、2回接種する。4ヶ月齢に達した時点で血清を調製しELISAにより抗体価を測定する。(βsynのELISAはセットアップし、αsynに関しては既存のものを使用する)。さらに2回接種をおこなった後、5ヶ月齢の 時点でモーリス水迷路試験などの行動試験をおこないワクチン接種した群と非投与群(対照群)との間に有意差があるかどうか検討する。
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