公募研究
M型星の視線速度を高精度に測定するためには、近赤外線領域において同時に広い波長域の高分散分光を行うことが重要である。その際、恒星スペクトルの波長較正のために、波長安定性の高い基準となるレーザー周波数コムを用いる。本研究の目的は、これまで発生に成功しているレーザー周波数コムの帯域 (1200-1750nm)を拡張し、目標であるY,J,H-band (970-1750nm)をカバーすることである。コムを短波長側に拡張するために、平成26年度は以下のような検討を行った。1、短波長側までコム帯域を拡張するために、パルスのピークパワーを増大することと、短波側にシフトしたゼロ分散波長の高非線形ファイバを導入することを検討した。2、パルスのピークパワーを増大するために、平均パワーを約4Wまで増幅できる光ファイバ増幅器を導入するとともに、パルス幅を約1/20に圧縮するパルス圧縮器を開発した。これにより、従来より約10倍ピークパワーを向上することに成功した。なお、パワー増大によって生じるファイバヒューズなどの危険性に対処するため、耐パワー性に優れたアッテネータ、アイソレータ、フィルタなどの光部品とそれらの融着接続を導入した。3、短波側にシフトした零分散波長の高非線形ファイバを複数種類組み合わせることで、分散の影響を極力少なくしたコム発生ファイバを構成できることを、計算と実験の両面から明らかにした。特に各ファイバの零分散波長と長さを精密に制御することが重要であった。上記の研究により、最終的に1040-1750nmに渉るコムの広帯域化に成功した。 また波長安定性を高めるための光学系を構築し、初期的な波長安定度の確認実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
短波長化には様々な条件をクリアにする必要があったが、当初計画した実験を大きな問題なく進めることができた。コムの帯域は、目標であるY-band端(970nm)まであと少しの所まで来ている。ただし、現在はコム光を測定する光スペクトルアナライザの感度不足が原因で短波長側が見えておらず、実際はより短波長側までコムが発生している可能性がある。
平成27年度は、下記のように主に光コムと開発中の赤外線高分散分光器を組み合わせての試験を行う。1、短波長側の出力確認:IRDがカバーする波長は970-1750nmである。コムは特に短波長側の出力が難しいが、現在までに~1040nm周辺までは出力されていることを確認している。より短波長側については、光スペクトルアナライザーの感度不足により現在は確認できていないが、実際にはコムが出力されている可能性が高い。平成27年度は、コムを分光器に導入し、分光器に搭載されている高感度赤外線検出器を用いて、短波長側がどこまで延びているかを確認する。2、強度の波長依存性問題の解決:コム強度には強い波長依存性があり、検出器のダイナミックレンジは有限なため、そのままでは一部の波長域でコム信号の測定が難しくなる。全ての波長域でコム信号を有効に利用するためには、強度の波長依存性を約10dB以内に抑える必要がある。平成27年度は、フィルターなどを組み合わせて、波長依存性がどこまで抑えられるかを確認する。3、それぞれのコムは波長幅が非常に狭いため、可干渉性が高い。そのためファイバーを透過後にモーダルノイズが大きく出る傾向がある。モーダルノイズは、視線速度測定の主要な誤差要因になる可能性が高く、これを減らすことが極めて重要である。平成27年度は、モーダルノイズ低減のためにすりがらすなどの光学系を導入し、特にファイバー入射位置ずれ時のモーダルノイズ低減を目指す。4、 分光器へコムを導入し、波長安定性の長期モニター試験を行う。周波数シフターを用いて人工的に波長のシフトを行い、分光器にて確認する。また2本のファイバーにコム光を導入し同時にスペクトルを測定することで、波長校正が可能か確認する。
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Proceedings of SPIE
巻: 9147 ページ: 914714-1 - 12
10.1117/12.2055075
レーザー研究
巻: 42 ページ: 706-710