2017 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪酸クオリティの最先端リピドミクスと生理的意義の解明
Project Area | Quality of lipids in biological systems |
Project/Area Number |
15H05898
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
有田 誠 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, チームリーダー (80292952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有田 正規 国立遺伝学研究所, 生命情報研究センター, 教授 (10356389)
瀬藤 光利 浜松医科大学, 医学部, 教授 (20302664)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 脂質 / メタボロミクス / 生理活性 / 生体成分 / イメージング / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノンターゲット解析で得られる大規模データから有用な情報を引き出すための手段として、マススペクトルの類似性に着目したクラスター解析法を導入した。この方法では、構造的特徴が似通っている代謝物を群として捉えることができ、未知の脂質分子の構造推定や表現型と相関する代謝物群の抽出が可能となった。また、実測データに基づくマススペクトルライブラリーの構築についても、脂肪酸(代謝物)、リン脂質、トリグリセリド、糖脂質、セラミド、スフィンゴ脂質、リゾリン脂質、胆汁酸、オキシステロール、脂溶性ビタミンなど、約4500種類に及ぶ脂質分子種をカバーし、幅広くリポクオリティの違いを識別する解析システムの構築が順調に進んでいる。これらを用いて、ヒトクリスタリン網膜症の発症メカニズムとして、網膜色素上皮細胞における脂質代謝異常が関与することを明らかにした(公募班池田らと共同)。また、抗アレルギー作用を有するEPA由来の機能性代謝物17,18-EpETEの受容体としてGPR40を同定し(公募班國澤らと共同)、その産生に関わる酵素としてCYP関連分子をゲノムワイド解析から見出した。 脂質マスイメージングについては、マイクロ流路デバイスを用いた安定同位体標識脂肪酸の局所投与により、脂質の神経細胞内順行性輸送が逆行性に比べて優位である事を見出した。トリプルネガティブ乳がんにおいて、PC (32:1)が再発と高い相関性を示す事、PI(16:0/20:4)が統合失調症患者の脳灰白質中で減少している事、下咽頭癌の上皮下浸潤領域でアラキドン酸含有PCが増加している事、動脈瘤壁の脱分化した平滑筋細胞が分布する領域でPI (18:0/20:4)が増加する事、X連鎖副腎白質ジストロフィー原因遺伝子ABCD1欠損マウスの脳において、超長鎖脂肪酸含有リン脂質が灰白質に高レベルで分布する事、などを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本計画班の大きな研究目的の1つは、リポクオリティの違いを見極める新しいリピドミクス技術の開発にある。そのためには、従来のターゲット解析に加えて、探索範囲が飛躍的に拡大するノンターゲット解析が有機的かつ効率的に繋がることが不可欠である。本年度の研究から、マススペクトルの類似性に着目したクラスター解析法の導入、および4500種類を超える幅広い脂質分子種に対して、実測データに基づく脂質マススペクトルライブラリーを構築し、ヒトクリスタリン網膜症の疾患特異的iPS細胞を用いた解析など、様々な生体試料のノンターゲット解析に適用した。また、脂肪酸代謝バランスの変化による疾患制御の分子メカニズム解析として、ω3脂肪酸クオリティを規定する代謝酵素や受容体候補分子の同定に成功した。いずれも当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。 脂質イメージングのサブミクロン観察については、TOF-SIMS技術の高度化を行った。電顕試料調製法を応用した新規細胞固定法とクライオSIMS技術の融合により、細胞内の脂肪酸イオン分布像を得る事に成功した。さらに、蛍光標識脂肪酸を投与した細胞で蛍光顕微鏡像と脂肪酸由来のイオン分布像の重ね合わせに成功した。マイクロ流路デバイスを用いた蛍光標識脂肪酸の局所投与・ライブ観察により、神経突起上での脂肪酸の輸送には極性により明確な速度差がある事を発見した。動脈硬化モデルマウスへのPUFA投与実験では、プラークにおいて脂肪酸由来メディエーターの分布可視化に成功し、そのようなプラークではM2マクロファージが分布している事を見出した。光や薬剤投与による脂質操作の系では、細胞内脂質合成の中心的な場である小胞体の細胞内局在を光応答的に制御する系を樹立した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はリピドミクスの新たな方法論の創出と技術展開として、4500種類を超える幅広い脂質分子種に対して、実測データに基づく脂質マススペクトルライブラリーを構築した。また、ノンターゲット解析から得られる未知の脂質分子種を含む大規模データから有用な情報を引き出すための手段として、マススペクトルの類似性に着目したクラスター解析法を導入した。今後は、マススペクトルライブラリーをさらに数万種類にまで拡張し、より網羅的なノンターゲット解析システムの構築を目指す。これらリピドミクス解析システムを生体試料に適用することで、リポクオリティによる生体制御の分子論的理解につなげていきたい。また、ω3脂肪酸の機能性発現に関わる生体内の代謝酵素が明らかになったことから、今後はこれら酵素の遺伝子欠損マウスの解析から、個体レベルでのω3脂肪酸代謝系の生理的意義に迫る研究を展開する。すなわち、ω3脂肪酸クオリティを反映する代謝系および活性代謝物の同定を目指す。 脂質イメージングのサブミクロン観察については、TOF-SIMS技術により神経細胞の軸索におけるサブミクロン空間解像度での脂質分布を調べる。マイクロ流路デバイスを用いて蛍光標識脂肪酸以外に、蛍光標識リン脂質などに関しても局所投与・ライブ観察を行う。動脈硬化モデルマウスの系では、プラークの脂質の質量顕微鏡解析を行う。光や薬剤投与による脂質操作の系では、小胞体の細胞内局在を光応答的に制御する系を用いて操作し、細胞内の脂質合成の空間的繋がりやその生理学的意義を明らかにする。
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Research Products
(69 results)
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[Journal Article] The 17,18-epoxyeicosatetraenoic acid?G protein?coupled receptor 40 axis ameliorates contact hypersensitivity by inhibiting neutrophil mobility in mice and cynomolgus macaques2018
Author(s)
Nagatake T, Shiogama Y, Inoue A, Kikuta J, Honda T, Tiwari P, Kishi T, Yanagisawa A, Isobe Y, Matsumoto N, Shimojou M, Morimoto S, Suzuki H, Hirata S, Steneberg P, Edlund H, Aoki J, Arita M, Kiyono H, Yasutomi Y, Ishii M, Kabashima K, Kunisawa J.
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Journal Title
Journal of Allergy and Clinical Immunology
Volume: 142
Pages: 470~484.e12
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Gut Microbiota Promotes Obesity-Associated Liver Cancer through PGE 2 -Mediated Suppression of Antitumor Immunity2017
Author(s)
Loo TM, Kamachi F, Watanabe Y, Yoshimoto S, Kanda H, Arai Y, Nakajima-Takagi Y, Iwama A, Koga T, Sugimoto Y, Ozawa T, Nakamura M, Kumagai M, Watashi K, Taketo M, Aoki T, Narumiya S, Oshima M, Arita M, Hara E, Ohtani N.
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Journal Title
Cancer Discovery
Volume: 7
Pages: 522~538
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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