2018 Fiscal Year Annual Research Report
体温と代謝の自律性・行動性調節を担う神経回路機構の解明
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
15H05932
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 和弘 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00548521)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (90400374)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 体温 / 代謝 / 神経回路 / ストレス / 情動 / 栄養 / 多臓器連関 / 本能行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 研究代表者は、心理や情動が体温調節を含めた多様な生体調節系に作用し、ストレス反応などの生理反応を生み出す現象を担う脳の神経回路の解析を進めた。その結果、心身相関現象の解明につながる重要な知見を得た。また、昨年度に引き続き、研究分担者の山田と研究代表者が共同研究を行い、マウスの肝臓におけるインスリン作用の低下が、交感神経活性の減弱による褐色脂肪組織の熱産生(=エネルギー消費)の低下を引き起こし、体重増加の要因となることを見出した。 2. 研究代表者は、米国・オレゴン健康科学大学のDr. Shaun Morrisonとの国際共同研究を進め、これまでの体温調節機構に関する研究成果を共著総説にまとめた。この国際共著総説は、生理学分野で世界的に注目される総説誌であるAnnual Review of Physiology誌に掲載された(Morrison & Nakamura, Annu. Rev. Physiol. 81:285-308, 2019)。 3. 研究代表者は、平成28年度に国際共同研究によって、視床下部が飢餓を感知して脳内で生み出される飢餓信号が、代謝(熱産生)を抑制するとともに摂食を促進する上で鍵となる延髄の神経細胞を発見し、査読付き英文国際誌に論文発表した(Nakamura et al., Cell Metab. 25:322-334, 2017)。今年度は、この発見に関連し、研究代表者が責任著者となって、脳が飢餓や飽食を感知し、適切な生体反応を発現させる神経回路のモデルを国際英文誌に発表した(Nakamura & Nakamura, BioEssays 40:1700252, 2018)。 4. 研究代表者は、昨年度に引き続き、体温のセットポイント決定機構を解明するため、ラット体温調節中枢の体温調節ニューロンの組織化学的解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は今年度、脳の中で心理や情動を処理する大脳皮質から、体温調節を含めた生体調節を担う視床下部へストレス信号を伝達する神経路を同定することに成功した。発見した神経路は、ストレスや情動が「心身相関」を通じて体温を上昇させる仕組みのカギを握る部分である。この発見は、心理や情動が生体の温熱恒常性を変化させる意義の理解を通じて、温度生物学領域が推進する「生体機能における温度の役割」の解明に大きく寄与すると考えられる。今後、この発見の論文化を進める予定である。 その他の研究項目についても、分担研究者の山田が、肝インスリン作用の低下に由来し、褐色脂肪の熱産生低下を引き起こす臓器間ネットワークにおいて、肝臓から分泌される液性因子が関与していることを、該当因子をノックアウトしたマウスを用いることで確認した。また、研究代表者は国際共同研究を通じて体温調節の中枢神経回路の最新モデルを発表し、さらに、エネルギーバランスを調節する中枢神経回路モデルを総説として発表するなど、おおむね順調に進展している。一方で、研究に用いる一部のウイルスの感染脳確認に予定以上に時間を要したなど、不慮の事象によって若干の遅れが見られたが、次年度の計画を見直して遅れを取り戻すことができる見通しである。以上の進捗状況に鑑み、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究代表者が心理ストレスや情動が体温を上昇させる「心身相関」のカギとなる神経路を特定することに成功したが、この発見の論文化を急ぐ。昨年度から進めている体温調節行動の中枢神経回路メカニズムの解析については、「温度情動」の関与も含めて、温度生物学領域の計画研究代表者であり、情動研究の専門家である南雅文教授(北海道大学)と共同研究を行うことで解明を進めている。また、分担研究者の山田が発見した、褐色脂肪の熱産生低下を引き起こす肝臓由来の液性因子は興味深く、引き続き、山田と研究代表者との共同研究を進め、作用メカニズムおよび生理学的意義の解明を続けていく。また、体温のセットポイント決定メカニズムや概日リズム形成メカニズムについても引き続き、領域内外の共同研究を通じて精力的に進めていく予定である。
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Research Products
(37 results)