2018 Fiscal Year Annual Research Report
生体の温度センシング・温度応答・体温制御における概日時計機構の役割の解明
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
15H05933
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土居 雅夫 京都大学, 薬学研究科, 教授 (20432578)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 時間生物学 / 温度 / 生理学 / 神経科学 / シグナル伝達 / G蛋白質共役受容体 / 時計蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題について研究調査を進めた結果、本年度、時計遺伝子のシス制御エレメントが動物個体の適切な体温の日内リズムに必要であることを示すことができた(Doi et al., Nature Commun in press)。具体的には、体内時計の振動形成の中核機能を担うPeriod2遺伝子の5’上流プロモーター領域に存在するシス制御エレメントに点変異を導入したマウスを作出し、当該エレメントがマウス成体において正常な基礎体温の日内リズムの維持に必要不可欠であることを証明した。シスエレメントという、タンパク質をコードしないノンコーディング領域のDNA配列を特異的に改変したという点が、従来の研究にはない本研究の独自性といえる。シス制御エレメントの重要性は、これまで進化発生生物学的な見地から、細胞の運命決定や形態形成、個体発生、系統発生を対象とした研究において詳細に解明されてきた。しかし、発生の段階を過ぎた成体においてシスエレメントが個体の生理機能の動的変化にどの程度の寄与を有するのかについての研究は国際的にみても皆無であり、これまで実験科学的証拠に欠いていた。本研究は、この問題に対し、独自に開発したマウスを用いることにより、シスエレメントを介したダイナミックな制御がマウス成体において体温の日内リズムを生み出すことを見出した。従来の進化発生生物学的な枠組みを超えたシスエレメントの生理的重要性を裏付ける重要な知見を提供したといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
体内時計に焦点を当て、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組み、脳内のサーカディアンリズム中枢が体温の日内変動を生み出すための神経回路、個体・組織・細胞内の局所温度の時間変化を生み出す分子機構の解明を目指した結果、これまでに、体内時計の最高位中枢器官である脳内の視交叉上核を標的とした探索研究において、体温の日内変動パターンを規定する新たなG蛋白質共役受容体CALCRを同定することに成功した(Goda & Doi et al, Genes Dev 2018)。これに加え、さらに、体内時計の振動生成の中核を担うPer2遺伝子の5’上流プロモーター領域に存在するシスエレメントに点変異を導入したマウスを作出し、本シスエレメントが動物個体の正常な活動リズムおよび体温リズムの維持に必須であることを明らかにした(Doi et al. Nature Commun. in press)。このように、計画は順調に進んでおり、すでに予想を上回る成果が得られつつある。これらの研究成果の他にも、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組みに関して、当初の計画どおりの探索研究を実施することができており、今後の研究展開の基盤となる所見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、当初の研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題にあたる。とくに、前年度までの研究調査によって良好な結果が得られつつある下記の課題に重点をおいて研究を進める。具体的には、体内時計の最高位中枢器官である視交叉上核を標的とした探索研究において、体温の日内変動パターンを規定する新たなG蛋白質共役受容体CALCRを同定することに成功した(Goda & Doi et al, Genes Dev 2018)。CALCRは視交叉上核以外の脳領域においても発現することが昨年度の我々の研究で分かったので、今後はこの成果を土台に、体温の概日性制御の神経回路を明らかにすることを最重要課題として研究を発展させる計画である。また、この体温制御の研究課題に並行し、生理的な体温変化が体内時計の位相を変化させる分子機構を調査する研究を当初の計画どおり前進させたい。前年度までの研究により、温度と体内時計機構の接点となる中核時計蛋白質の蛋白質変動プロファイルを簡便に培養細胞レベルでとらえる方法を樹立することができたため(Tainaka et al, Chronobiol Int 2018)、これを活かした細胞内シグナル伝達経路の解析を、領域内共同研究をさらに一層強化して推し進める計画である。
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Research Products
(21 results)