2020 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular Mechanism of Signal Transduction System Regulating Biometal Dynamics
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
19H05769
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | 金属生命科学 / ヘム / アミノレブリン酸合成酵素 / ヘム制御モチーフ / 鉄制御蛋白質 / 鉄応答要素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の項目について研究を行った。 1.アミノレブリン酸合成酵素(ALAS1)と蛋白質分解系ClpXの機能及び相互作用解析 領域内の分子科学研究所生命創成探求センターの青野教授との共同研究を実施し、ラット由来のALAS1を用いてヘムの結合当量、及びヘムの結合による構造変化を追跡した。その結果、ラット由来のALAS1は、ヘムを2当量結合することを見出し、その結合部位として、ヘムによってその機能を制御される蛋白質に特徴的なヘム制御モチーフ(HRM)中のCys110とCys527を同定することができた。さらに、そのヘム結合による構造変化を追跡したところ、CDスペクトルの変化からαヘリックス含量が40%程度低下し、部分的な変性が誘起されることを明らかにできた。このような部分的な変性がClpXとの相互作用を変化させ、ALAS1の分解につながると想定された。 2.細胞内鉄代謝制御機構における鉄制御タンパク質(IRP)の制御機構 IRPの相同体の一つであるIRP1におけるヘムによる翻訳制御機構を検討するため、その標的RNA配列である鉄応答要素(IRE)の結合部位付近で、ヘムが結合可能なCys残基を網羅的に置換し、ヘム結合部位の同定を試みた。蛍光プローブを結合させたIRE様合成RNAに対して、それぞれの変異体を滴定し、その蛍光異方性を追跡したところ、HRM中のCys残基を含め、IRE結合部位付近の複数のCys残基にヘムは結合可能であり、いずれのヘム結合もIREの結合を阻害することが示された。さらに複数のCys残基に変異を導入すると、ヘムによるIRE結合阻害の効果は減少した。以上の結果から、IRP1におけるヘム結合の部位特異性は低く、IRE結合部位近傍の複数のCys残基のいずれかにヘムが結合することで、その立体障害生成により、ヘム依存的IRE結合阻害が誘起されることが明らかとなった
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験項目1.については、ラット由来のALAS1を用いることで、分光学的測定に耐えうる純度と量の標品蛋白質を得ることができる発現、単離、精製手順を確立した。さらに当初の予定通り、ヘムの結合当量やその結合部位を同定したほか、ALAS1に対してヘムの滴定をCDスペクトルで追跡することにより、ヘムの結合によってそのαヘリックス含量が40%程度減少することも見出すことができ、期待通りヘムによる構造変化を検出できた。以上の結果のほかに、次年度に予定していたClpXの大腸菌による発現、単離、精製についても予備的な実験を行うことができ、少量ながら蛋白質標品を得ることに成功し、次年度の大量発現及び精製の見通しが立てられる状況となった。したがって、実験項目1.は当初予定していた以上に進んだと判断できる。 実験項目2.についても、当初の予定通り、Cys残基を変異した変異体すべてについて、その単離、精製を行い、ヘムの結合当量、IREに対する親和性、ヘム添加によるIRE結合能の変化を明らかにすることができた。ただ、当初、期待したようなIRE結合阻害する単一のヘム結合部位が存在するという結論には至らず、これまで得られている結晶構造解析の結果とは必ずしも一致しなかったことから、今後のさらなる検討が必要である。令和2年度に予定していた実験や測定はすべて実施できたので、この実験項目についてはおおむね順調に進展していると判断できる。 さらに当初は実験項目3としてALAS1変異による鉄・ヘム・過酸化水素の細胞内量変化についても検討する予定であったが、コロナ感染防止の制限から予定していた共同研究者との実験が実施できず、細胞内に導入する変異体の検討のみで今年度は終了せざるを得なくなった。したがってこの実験項目については進捗が十分ではないが、実験項目1~3全体としては、おおむね順調に進展していると判断する
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Strategy for Future Research Activity |
実験項目1.については、令和2年度において順調に研究は進捗し、さらに、一部の実験については令和3年度に予定している実験の予備実験まで行うことができた。この実験項目において、令和3年度はClpXの発現、単離、精製が主な実験内容となるが、予備実験の結果から、蛋白質精製過程においていくつかの課題を見いだすことができ、分光学的測定に耐える純度と量の蛋白質標品を得るためには、これらの課題を解決する必要がある。特に、大腸菌による発現系では十分な量の蛋白質精製標品が期待できない面もあり、大量発現系については検討が必要である。また、ClpXは蛋白質としての安定性も高くないので、進捗状況によってはヒト由来ではなく、ALAS1同様、より安定な構造を示すと想定されるラット由来のClpXの利用も検討する必要がある。 実験項目2.については、アミノ酸残基の変異導入によってヘム結合部位が変化する可能性が示されたことから、Cys残基を置換した変異体の利用のみでは、野生型IRP1において、どのCys残基にヘムが結合してIRE結合能を阻害するのか、決定できない可能性が高いことが示された。そこで、今後は領域内の岐阜薬科大学の平山准教授が開発したヘム結合部位を酸化修飾する「ヘム修飾プローブ」の利用を検討する。この手法を用いることで、ヘム結合部位付近に酸化修飾を導入し、その酸化修飾された部位を質量分析計によるペプチドマッピングを用いて同定し、実際にヘムが結合している部位を決定する。ここで得られた結果をこれまでの分光学的及び結晶構造解析の結果と比較することにより、細胞内でIRE結合を阻害するヘム結合部位の決定が可能になると期待される。 実験項目3.についてはコロナ感染防止による制限の解除に依存しているが、研究室内でも細胞を用いた実験が可能になる設備の整備を進める。
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[Journal Article] Mechanistic Insights into Heme-mediated Transcriptional Regulation via a Bacterial Manganese-binding Iron Regulator, Iron Response Regulator (Irr)2020
Author(s)
Nam, D., Matsumoto, M., Uchida, T., O’Brian, M. R., Ishimori, K.
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Journal Title
J. Biol. Chem.
Volume: 295
Pages: 11316-11325
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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