2022 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular Mechanism of Signal Transduction System Regulating Biometal Dynamics
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
19H05769
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
|
Keywords | 生命金属科学 / ヘム / アミノレブリン酸合成酵素 / ヘム制御モチーフ / 鉄制御蛋白質 / 鉄応答要素(IRE) |
Outline of Annual Research Achievements |
1.細胞内鉄恒常性を維持するシグナル伝達分子としてのヘムの機能 細胞内鉄恒常性維持機構を担う鉄制御蛋白質(IRP)のヘム結合部位として、アミノ酸置換からはヘム制御モチーフのCys残基であるCys118とCys300が、一方、結晶構造解析に成功したIRP1変異体(IRP1 C437/503S)では、ヘム制御モチーフではないCys506が示さた。そこでIRP1 C437/503Sのヘム結合部位について、岐阜薬大の平山が開発したヘム結合部位修飾プローブ法を利用し、京大の田村による質量分析解析から検討した結果、Cys506だけでなくCys300へのヘムの配位も明らかになった。以上の結果は、IRP1のヘム結合部位は一つではなく、その標的mRNAであるIRE結合部位付近の複数のCys残基であることが示唆された。 2.分子シャペロン機能におけるヘムのシグナル伝達分子としての機能 ヘム生合成酵素の一つであるアミノレブリン酸合成酵素(ALAS1)は、ヘム存在下では分子シャペロン複合体ClpXPにより分解される。この反応機構解明のため、生命創成探究センターの青野との連携研究として、ALAS1のヘム結合による構造変化を追跡したところ、ヘムのCys110への結合により、αヘリックス含量が減少し、構造の熱安定性も低下するものの、変性過程の解析からは構造形成が示唆された。ALAS1はN末端側約100残基が天然変性状態であることから、Cys110へのヘム結合によるN末端側での疎水的コア形成が示唆され、このことは疎水性残基を認識してペプチド鎖を切断するサーモライシン分解反応のヘム添加による阻害からも支持された。つまり、ALAS1はヘム結合によりN末端側の天然変性領域に疎水性コアが形成されることでC末端側の構造の不安定化が誘起され、このような構造変化をClpXPが認識し、その分解を進行させると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでアミノ酸置換体を用いたヘム滴定実験や、標的mRNA配列であるIREへの結合実験からは決定できなかったIRP1におけるヘム結合部位について、ヘム結合部位修飾プローブを用いることで、IRE結合部位の複数のCys残基が関与することが明らかになった。このような部位特異性の低いヘム結合様式は、これまで報告されているヘムを活性中心として有する蛋白質では観測されず、IRP1で初めて明らかになったもので、当初の目的通り、ヘムを情報伝達分子とする蛋白質の構造的特徴を明らかにすることができた。 ALAS1におけるヘム結合についても、どのような構造変化によって分子シャペロン複合体ClpXPとの相互作用が変化し、ALAS1の成熟化とその分解が区別されるのか、これまでその分子機構に関する情報は全くなかったところ、ヘム結合による天然変性領域での疎水的コアの形成が引き金となって蛋白質全体の不安定化が誘起され、それをClpXPが認識し、分解へ導くという新たな仮説を提案できた。今回の結果から、ヘムによる分子シャペロンとの相互作用の制御に基づく新たな分子機構が示唆できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
IRP1のヘム結合様式の同定に関しては、これまでのヘム結合部位修飾プローブを用いた実験の条件では、本来の結合部位のほか、非特異的なヘム結合部位も検出されていることから、種々の反応条件を変化させることで、機能的に意味のある親和性の高いヘム結合部位の同定を試みる。さらに、変異体IRP1だけではなく、野生型IRP1についても同様な実験を行い、そのヘム結合様式を明らかにする。IRP1との相同体で、もう1か所、ヘム制御モチーフを有するIRP2についても、ヘム結合部位修飾プローブを用いて、そのヘム結合様式を明らかにする。また、このようなヘム結合がIRPの立体構造にどのような変化をもたらすのかについては、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用のほか、横浜市大の明石との連携研究としてネイティブ質量分析も予定している。 ヘム結合によるALAS1の分子シャペロンClpXPによる分解機構については、ヘム結合によるN末端側での疎水性コアの形成により、ALAS1の立体構造が大きく変化することから、IRP同様、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用を試みる。さらに、ヘム結合によるALAS1とClpXPとの相互作用の変化については、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用といった実験的なアプローチだけではなく、ドッキングシミュレーションも視野に入れて研究を進める。
|
Research Products
(12 results)