2012 Fiscal Year Annual Research Report
Neural data analysis and local neural circuit modeling
Project Area | Mesoscopic neurocircuitry: towards understanding of the functional and structural basis of brain information processing |
Project/Area Number |
22115013
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
深井 朋樹 独立行政法人理化学研究所, 脳回路機能理論研究チーム, チームリーダー (40218871)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 神経回路モデル / 連想記憶 / スパイク発火 / 大規模シミュレーション / 多電極記録 / ネットワーク構造 / 情報理論 / 確率的挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質の神経回路は、疎らで非常に強いシナプスと、非常に多数の弱いシナプスによって形成されていることが近年明らかになってきた。このような神経回路(strong-sparse, weak-dense構造、あるいはシナプス荷重の対数正規分布)では、密で弱いシナプスが回路内に最適ノイズを生成し、疎で強いシナプスによる信号伝達を確率共鳴によって促進する効果を生成することを、シミュレーションと理論的解析によって示した。この結果を利用し、脳の自発発火の回路的起源の説明や(Teramae et al., Sci Rep, 2012)、海馬CA3の連想記憶回路モデルの記憶性能の改善を行い(Hiratani et al., 2013)、その有効性を確認した。また前年提案した対数正規分布型のシナプス荷重を生成するlog-STDPが、入力スパイクの時間相関に基づく主成分分析を実行可能であること示した(Gilson et al., 2012)。行動中のラットの運動野神経細胞のスパイク発火のベキ統計を解析し、神経細胞がエネルギー制約条件下でノイズエントロピーを最大化するという仮説を提案して検証した(Tsubo et al., 2012, 2013)。多峰性分布をもつ特徴空間を検出して主成分分析を行う手法を開発して、多電極記録のスパイク分離の精度を、大幅に向上させることに成功した(Takekawa et al., 2012)。これにより、一つの多細胞記録データから従来法の2倍~3倍のスパイクが分離できるのみならず、手作業による修正がほとんど不要になり、大幅に作業効率が上がる。ドイツの協同研究者らと協力して、スーパーコンピュータ利用による脳の局所回路モデルのシミュレーション研究を進め、その成果を踏まえて、最近の技術的発展と将来展望についてのレビュー報告を行った(Helias et al., 2012)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
視覚野におけるトップダウンの注意信号と網膜-視床経由のボトムアップの感覚信号が、局所回路の層間の神経回路と、局所回路の層内の神経回路の相互作用によって処理されるという仮説を立て、6層構造をもつ視覚大脳皮質の局所回路のモデル化を行ってきたが、視覚野については空間注意と特徴注意における神経活動の違いを再現することが可能になった。またNESTと呼ばれる国際的シミュレータの研究開発環境と結びつくことで、研究が加速し、将来的進展の可能性も広がってきた。また電気シナプスの並列計算法の提案など、大規模回路の計算に関して独自の貢献も生まれつつある。また開発した多細胞のスパイク分離法は世界的にもトップを争う高性能を誇っており、国際的にも広く利用されている。残された課題として、同期したスパイクを多数含むデータや、種類の異なる神経細胞のスパイク列が混在するデータからの安定したスパイク分離があるが、この研究テーマに関しては予想以上の進展があったと言える。さらにイメージングデータからのカルシウム濃度の推定に関しても、従来法を凌ぐ手法の開発が進んでいる。以上のことから、研究の進展は概ね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞集団の活動が得られたときに、集団のスパイク時系列の特徴、たとえば繰り返しなどのパターンを検出する方法の開発を引き続き行う。情報は発火率の緩やかな変化や、スパイクの同期や時系列などの相関によって表現されるのが普通であるが、情報表現に関する仮説を持ち込まずに特徴を自動的に抽出するカーネルと最適化法のアルゴリズムを完成させる。Log-STDPは興奮性ニューロン間のAMPA型シナプスのSTDP規則である。しかし大脳皮質には抑制性回路のシナプス可塑性も存在し、その機能的な役割について関心が集まっている。そこで興奮性シナプスの可塑性と、抑制性シナプスの可塑性の協働によって可能になる回路情報処理を詳細に調べる。例えば、興奮と抑制のバランスを維持するメカニズム、それによる入力スパイクの選択的あるいは確率的なgating、入力スパイク列の時系列的特徴の検出を行う仕組みや、記憶情報処理においてセルアセンブリーの形成を制御するメカニズムなどの解明が挙げられる。また、既に示した対数正規分布型のシナプス荷重をもつ神経回路における確率共鳴現象を利用して、神経回路ダイナミクスによる事前分布の動的表現や、それを利用する意思決定の回路モデルの構築、さらには大脳皮質の基本的計算に関与すると思われるエコー状態マシンや、予測的コーディングの局所回路モデルを構築し、脳の確率推定能力(ベイズ推定)の神経回路基盤の解明にせまる。
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Research Products
(23 results)