2002 Fiscal Year Annual Research Report
「満洲」という社会的リアリティ-岐阜県郡上村開拓団の戦前戦後の実証研究-
Project/Area Number |
01J06074
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
猪股 祐介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 満洲移民の植民地経験 / 満洲移民の引揚げ経験 / 個人と共同体の記憶 / 満拓公社と満洲開拓団 |
Research Abstract |
本年度は、満洲移民経験者に対する聞き取り調査と文献調査を行なうことによって、岐阜県郡上村開拓団における満洲経験の把握につとめた結果、以下の三点において研究の進捗をみた。 1.インタビュー調査技法 質的調査に関する諸文献の精読とインタビュー調査を実施した際の反省を踏まえ、昨年度確定した技法をさらに精緻化した。具体的には、聞き取りのテーマを敗戦前の開拓団生活と敗戦後の引揚げ経験の二つに絞りこみ、前者に関しては一問一答式の半構造化された聞き取り、後者に関しては語り手に自由に話させる聞き取りと、テーマごとに聞き取りのモードを変える方法を採用した。 2.「開拓団の物語」と引揚げ経験 満洲移民経験者による体験記を精読した結果、そこには「開拓団の物語」と呼ぶべき一定のパターンがあることが判明した。この開拓団の物語は、団長を核とする強固な団結心に支えられた共同性によって構成される。しかし、郡上村開拓団出身者から聞き取る過程で、開拓団において称揚される共同性に回収しきれない、諸個人が胸に秘めてきた引揚げ経験に接することができた。具体的には、集団自決やソ連兵による強姦、そして肉親の死である。ただ、開拓団の物語はこれら耐えがたい経験を受容可能にする緩衝材として機能した一面もあり、共同体の記憶と諸個人の経験の相関関係についてより一層の検討が必要である。 3.満洲拓植公社と開拓団の経済的自閉性 満洲開拓団においては、満洲拓植公社が物資・金融助成を、満洲農産公社が農産物出荷を管掌することで、現地の他民族市場から完全に切り離されたことが、郡上村開拓団出身者に対する聞き取り調査や文献調査によって明らかとなった。さらに『満拓公社帝国議会説明資料』等の分析によって、満拓公社が開拓団に対する物資・金融助成の経費を、社債発行と社有地の小作料収入、開拓団への政府補助金から捻出していたことを実証した。
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Research Products
(1 results)