2002 Fiscal Year Annual Research Report
理想化大気大循環モデルを用いたストームトラックと長周期変動に関する研究
Project/Area Number |
02J00270
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
稲津 將 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ストームトラック / 海面水温 / 気候形成 / 大気力学 |
Research Abstract |
本研究は申請書に記載したように、中高緯度の大気中をしめる2種の変動に対する地球表面の効果を調べることにある。そのうち、本年度は10日より短い周期の総観擾乱の活動について調べ、論文(Inatsu et al.2003)としてまとめた。 地表面条件の中で、特に中緯度海面水温(SST)の効果に注目した。これは、Inatsu et al.(2002b)の中で示唆された、中緯度SSTのストームトラック効果をより深く調べる為である。Kushnir et al.(2002)のレビューにあるように、中緯度SSTの効果は、大気の基本場や中緯度SSTの与え方に極めて鋭敏であるため、過去の研究において大気大循環モデル(AGCM)の結果は多く相反する。本研究では、水惑星と季節固定の拘束条件で基本場をほぼ固定し、その条件下で中緯度のSSTの強制を与えた実験を行った。この単純化は、山岳や海陸分布の効果を排し、中緯度SSTに対する大気の応答を抽出することも可能にする。また、東西波数1型のSST強制を与えた本実験の設定は、南半球冬季の状況に類似している。そこで南半球冬季の観測事実との比較を行った。 中緯度SSTを北緯30度においた時、有意な定常波、ストームトラックを生じた。中緯度SSTの南北勾配の効果が惑星境界層内の傾圧度の東西分布を生じ、また一方で中緯度のSSTそのものの東西差により蒸発の東西分布を生じる。この両者の効果が相乗的に作用する事で大気の有意な応答を生じる。一方、中緯度SSTを北緯50度においた時、その南北勾配は40度において、前述の実験と全く同じになるにもかかわらず、時間平均場とストームトラックは共に東西一様になった。これは、中緯度のSSTの南北勾配と中緯度のSSTの両効果が相殺することによる。 中緯度SSTを北緯30度においた時の相乗効果を、力学的解析によりさらに説明した。まず、高傾圧度域で傾圧的エネルギー変換が多く生じていることがわかった。また、この領域ではストームトラック活動に伴い、降水も強い。すると、非断熱加熱が大きくなり、非断熱加熟の一部は断熱冷却と釣り合って、地表面に収束を作る。時間平均場のエクマン収束により、ここには低気圧偏差を生じる。これは先に仮定した傾圧度を高めるようなセンスにある。このような定常波とストームトラックの正のフィードバツクは、過去の研究におけるフィードバックとは異なるが、中緯度SSTを北緯30度においた時の相乗効果を説明する。 更に、南半球の冬期の状況との比較を行った。Nakamura et al.(2003)の研究において、南半球の亜熱帯ジェットの上流にストームトラックが存在し、そのストームトラックは惑星境界層の傾圧度に対応する、と示唆された。また、惑星境界層の傾圧度は南半球のSSTの分布におおよそ一致している。このような南半球冬期の状況は、中緯度SST強制を北緯30度においた実験に酷似する。 尚、本研究のモデル実験のために、本年度の予算の大部分は、大容量ハードディスクを購入に費やし、膨大な実験の結果の格納に役立てている。予算の残りの部分は、諭文の投稿料や学会参加の為の費用など、主に研究成果の発表のために活用した。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Inatsu, M., H.Mukougawa, S.-P.Xie: "Stationary eddy response to surface boundary forcing : Idealized GCM experiments"Journal of the Atmospheric Sciences. 59巻11号. 1898-1915 (2002)
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[Publications] Inatsu, M., H.Mukougawa, S.-P.Xie: "Tropical and Extratropical SST Effects on the Midlatitude Storm Track"Journal of the Meteorological Society of Japan. 80巻4B号. 1069-1076 (2002)