2002 Fiscal Year Annual Research Report
動的なランダム・ポテンシャル系における電子状態と量子輸送現象
Project/Area Number |
02J10088
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
大江 純一郎 上智大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | メゾスコピック系 |
Research Abstract |
本研究では、動的メゾスコピック系に発生する非平衡・非線形領域での交流電流を、数値的に研究した。時間変動ポテンシャルを有するメゾスコピック系(動的メゾスコピック系)では、電子が時間変動ポテンシャルのエネルギー量子hωを吸収・放出することで、系の電気伝導度が変化する光支援量子輸送現象が起こることが知られている。これまでの光支援量子輸送現象に関する研究の多くは、系を流れる直流電流を扱ってきたが、実際にはこの動的メゾスコピック系には有限波数の非線形交流電流も発生している。しかしながら、このような交流電流を、系のコヒーレンスを保ったまま観測するのは困難である。さらに、交流電流の大きさを定量的に計算する理論的手法も確立されていないため、実際に観測しうるか否かを評価することも困難であった。 本研究では、時間変動ポテンシャルを有する2端子の電子波干渉計(メゾスコピック・リング)に生ずる交流電流が、実際に観測可能であることを数値的に示した。数値計算には、エネルギー非保存系に適用可能な転送行列法を用いた。この方法を用いると、複雑な形状を有する系の電流を短時間かつ定量的に計算することが可能である。具体的にはリング内に生ずる交流電流を求め、この交流環状電流により誘起される磁場を時間の関数として計算した。実験的には交流磁場を測定することにより、間接的に交流電流の存在を確認することができることを示した。我々は以前にこの2端子電子波干渉計を流れる直流電流のエネルギー依存性に、特異なカスプ構造が現れることを明らかにしたが、この新しいタイプの光支援量子輸送現象が交流電流にも現れることを明らかにした。また、このカスプ信号が磁場による電子波の位相変調によって消失してしまうことを示した。さらに、実際の実験では避けることのできない不純物の効果を数値計算モデルに取り入れ、解析を行った。その結果、不純物を有する場合でも、カスプ信号が観測可能であることを示した。
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