2004 Fiscal Year Annual Research Report
イタリア・ファシスト政権下の喜劇映画にみる大衆視覚文化
Project/Area Number |
03J04428
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
室崎 美紀 (石田 美紀) 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 映画 / ファシズム / イタリア / 植民地表象 / 視覚文化 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、ファシスト政権下のイタリア映画の調査を行った。今年度は、1930年にトーキーへと移行し、再編を急いできたイタリア映画産業が1936年以降にリビアを中心とした植民地で行ったトーキー劇映画製作に関して、当該フィルムの視聴調査および関連文献資料の収集と整理を重点的におこなった。国内での調査に加え、10月26日から11月4日にかけてイタリア、ボローニャ市立映画アーカイヴでの調査を行った。今年度の調査から判明したことは以下である。トーキー劇映画として初めて製作されたアウグスト・ジェニーナ監督『リビヤ白騎隊』の製作背景には、ファシスト政権の植民地経営の安定と映画産業の成熟というふたつの要素が必要であった。しかしながら、本作品における植民地リビアの表象は、通常想定されるサイード的な「われわれ」と「彼ら」という二項対立に依拠するものではない。いやそれどころか、こうした二項対立がまったく存在しないという奇妙な映画となっている。その理由は、モノクロ映画においてはリビアの領土の大部分を占める沙漠が、映画スタジオで人工照明を焚き技術を凝らして撮影される空間以上に、「白く」表象されてしまったことにある。すなわちそれは、モノクロ・トーキー劇映画という視聴覚表現媒体と野蛮な大地であるはずの沙漠の遭遇が、植民地の支配者であるイタリアの想定を大きく裏切る形で行われたことを意味している。『リビヤ白騎隊』における白く輝く沙漠は、アフリカ人に対する白いイタリア人の優位性、野蛮を啓蒙する文明の光という、イタリアがリビアを支配する大義名分の根拠を反転させるものであった。この特異な植民地表象は、ファシスト政権下のイタリアにおけるモダニティーの様相を考察する上で、非常に示唆的なものである。なお、この調査に関する最初の報告として、美学会西部会第248回例会において「「イタリア・ファシスト政権下における『白』の視覚-『白い電話』、近代建築、リビア-」を発表した。
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