2003 Fiscal Year Annual Research Report
イスラーム思想における聖典クルアーン(コーラン)の意味―「書かれたもの」として―
Project/Area Number |
03J04530
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
黒宮 玲子 (大川 玲子) 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | イスラーム / イスラム / クルアーン / コーラン / 聖典 |
Research Abstract |
本年度の課題は中東における書記と書物の歴史的展開を明らかにすることであった。そのために必要な資料収集とそれらの精読作業を行った。そのなかで、セム語系言語であるメソポタミア文明のアッカド語に始まり、ユダヤ教のヘブライ語・アラム語を経て、イスラームのアラビア語に至る「書くこと」の意味の継続性を明らかにしようと試みた。これら口承文化圏においては、コトバが「書かれたもの」つまり「書物」となることは神的存在と結びつけてとらえられていた。「書記」や「書物」とは聖なる行為であり、聖なるモノであると考えられていた。それがメソポタミア文明の「運命の書」、旧約聖書の「生命の書」、そしてクルアーン(コーラン)に見られる「天の書板」として具象化されている。またこの系譜の背景には「書くこと」が「運命を定めること」と近い意味の場にあるとする言語認識があることがわかった。これらの作業を通して、研究全体の土台作りの作業がなされたと言える。 またアラビア語文献のクルアーン解釈書の分析にも取り組んだ。それらは二度の学会・研究会で発表された。「予定説と『天の書』-クルアーン十三章三九節の解釈をめぐって-」と「タフスィール文献に見られるクルアーン啓示理論の展開」である。これらを通して、クルアーンにある「天の書板」概念が、イスラーム初期では曖昧であったにもかかわらず、中世に至る頃には明確に、運命とクルアーンが書かれた「書」として認識されるようになったことを明らかにした。これらによってイスラームの「天の書」概念の分析の端緒が開かれた。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 大川 玲子: "リチャード・ベル『コーラン入門』"イスラム世界. 62号. 88-91 (2004)
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[Publications] 大川 玲子: "予定説と『天の書』-クルアーン十三章三九節の解釈をめぐって-"宗教研究. 339号. 298-299 (2004)
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[Publications] 大川 玲子: "聖典「クルアーン」の思想-イスラームの世界観-"講談社. 236 (2004)