2003 Fiscal Year Annual Research Report
権利主張と他者への敬意-敬意を涵養し、敬意によって実現される権利-
Project/Area Number |
03J05446
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吾妻 聡 京都大学, 大学院・法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 権利再構築 / 権利批判 / 承認の政治 / 尊重・敬意の感性 / 批判法学 / ロベルト・M・アンガー / 障害学・障害者の社会運動 / 差異 |
Research Abstract |
本研究の主題は権利概念の再構築であり、論証が試みられたのは以下である。第一、この再構築という学的実践が何故なされねばならないのか。第二、その再構築は如何なる方向性・具体像を有さねばならないか。 第一に関して本研究は、「承認の政治」と呼ばれる、20世紀後半以降政治・社会運動のパラダイムとなった文化的差異の承認要求(フェミニズム運動・ゲイ運動・障害者運動【triple bond】)が、権利獲得運動として現象することに注目する。承認の政治が目指すのは、社会的な価値・倫理等の日常的感性の再編成を通した、抑圧されて来た差異への尊重・承認獲得に他ならない。つまり、社会民主主義体制において財の再配分要求へ応答するという機能を担ってきた権利は、現代的文脈の中で、承認・文化的変革要求に応答するという機能を期待されるに到っている。だが批判法学は、政治運動の道具として権利は有効性を欠いており、それどころか「不確定性」「物神性」という権利の属性はむしろ脱政治化を帰結すると批判する。また共同体主義は、権利言説の氾濫は社会の責任感覚・他者への尊重の感性の退廃を招く(没倫理化)と警鐘を発する。つまり権利は、承認の政治の運動力をむしろ去勢し、かつ、承認・尊重という感性を掘り崩すモーメントを有しているのだ。この洞察から、権利批判あるいは脱構築的実践を貫くことも学的態度として重要ではある。だが、権利への期待は益々高まっているという事実、また変革の道具として権利は完全に無能であったわけではないという事実、これらが指し示すのは権利を別様へと再構築することによって、社会の要求に答えるに足る新たな道具を獲得することであると本研究は考える。 第二に関して本研究は、特に近年盛んになっている「障害学」の仕事、および、ハーバード・ロースクール教授ロベルト・M・アンガーの仕事に注目する。幸運にも同ロースクールにて客員研究員として研究する機会を得、アンガーおよび次世代の研究者と議論を交すことによって、アンガー理論の理解は深められている。アンガーの権利論は、「脱安定化権」-固着化した階層秩序・制度的枠組みを不断の吟味(政治的紛争)に晒すことを眼目とする権利-を中心とする、ラディカルな政治(ラディカル・デモクラシー)招聘の試みである。閉塞した既存の文脈から個を解放することによって、別様の自己および社会の自由な再想像・再創造の可能性を開示することを目指すアンガーの権利再構築の仕事は、承認の政治への要求-政治化を促進すること、尊重・敬意の感性を涵養すること-への応答として重要なポテンシャルを有していると本研究は考えている。障害学は、やや抽象的に過ぎるアンガーの権利論に、より具体的な議論の材料を提供する重要な仕事である。
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