2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J10867
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和仁 健太郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 国際法 / 中立 / 非交戦状態 / 武力紛争法 |
Research Abstract |
1.本年度はまず、1907年ハーグ中立諸条約の起草作業を研究し、次の知見が得られた。(1)中立領土の不可侵を定める陸戦中立条約第1条の趣旨は、議事録によれば、「中立国は義務だけでなく権利も有すること、...敵対行為に直接又は間接に巻き込まれないことを要求する基本的権利を有すること」を明確にすることであった。(2)交戦国による中立侵害を排除するための中立国の武力行使を「敵対行為ト認ムルコトヲ得ス」と定める同条約第10条の趣旨は、このような武力行使は「開戦事由(casus belli)として援用できない」ということであった。(3)以上2つの事実は、「敵対行為」ないし「casus belli」と見なし得る行為を中立国が行なわない限り、中立国は交戦国によって戦争に巻き込まれない権利を有する、と認識されていたことを意味する。 2.次に、1.の知見を手がかりに(つまり、中立国は戦争に巻き込まれない権利をもっていたのかという視点から)、18世紀後半〜19世紀の学説と国家実行(外交文書・議会資料)を研究した。結論は次の通り。(1)中立国は「中立にとどまる権利」(=戦争に巻き込まれない権利)を有するものとされていた。(2)中立国の負う避止・公平という義務は、「中立にとどまる権利」と対応関係にあるものと位置づけられた。すなわち、避止・公平に反する中立国の行為は「敵対的」とされ、交戦国は同中立国を戦争に巻き込めるものとされたが、逆に、中立国が避止・公平に従っているのであれば、同中立国は戦争に巻き込まれない権利を有するとされた。 3.今日では、伝統的中立制度において、中立国が交戦国によって戦争に巻き込まれない権利はなかったと考えられている。しかし本年度の研究は、中立国は公平義務を守っている限り戦争に巻き込まれない権利を有するとされていたことを明らかにした。この知見により、伝統的中立制度の制度趣旨、特に公平義務の位置づけと機能について、従来の理解を修正する必要が明らかになったといえる。
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