Research Abstract |
本研究では,まず,異なる植物生長調節物質(PGR),種々の添加物および培養条件によってシンビジウムのPLB切片からPLBおよびエンブリオジェニックカルス(EC)を誘導し,PLB切片から誘導されたPLB,PLBから発達したシュートや根,またPLB切片から誘導されたECについて,RAPD法およびフローサイトメトロリーを用いて細胞遺伝学的分析を行った.その結果,PGRの種類および組み合わせにかかわらず,PLB切片からPLB形成およびEC誘導が観察された.最高のPLB形成は0.1mgl^<-1> NAA+0.1mgl^<-1> kinetinまたは0.2mg^<-1> adenine添加培地で,また最高のEC形成は0.1mgl^<-1> NAA+0.01mgl^<-1> TDZまたは2mgl^<-1> BA+1mgl^<-1> NAA+1 gl^<-1>活性炭の添加培地でそれぞれ得られた.種々の添加物,支持体,ゲル化剤,および光条件は,PGRの有無にかかわらず,器官形成に影響を及ぼした.これらの効率的に誘導されたPLBやECは,パーティクルボンバードメントによる遺伝子導入のための有用な材料となろう.遺伝的変異については,まざまな核内倍数性がPLB(≦8C)およびEC(≦16C;16Cはtrace)で認められた.しかし,PLBから発達したシュート,およびシュートから分化した根では2Cと4Cのみが観察された.この細胞学的変異に加えて,RAPD分析を行ったところPLB,EC,シュートおよび根の間に遺伝的変異があることが明らかになった.A-18,B-10,C-2,LFY3およびtrnK2Rは単形性であったが,trnhおよび5SP3/4は器官特異的なマーカーを示す多形性であった.これらの細胞学的変異にかかわらず,再生した小植物体では形態的な変異はなかった.次に,このEC培養系を用いたマイクロプロパゲーション由来の培養体における遺伝的安定性については不明であることから,EC培養系および従来法のPLB培養系(対照)において得られるさまざまな培養体・器官について,フローサイトメトロリーを用いて細胞遺伝学的分析を行った.その結果,PLB培養系,EC培養系で得られた小植物体のいずれにおいても,葉の先端部・中央部および根の中央部・基部で細胞分裂は少なかった.一方,増殖PLB,誘導・増殖されたECおよびECから形成されたPLBでは活発な細胞分裂がみられた.また,小植物体の根の先端部および誘導・増殖されたECにおいては核内倍数性は高く(≧8C),ECから形成されたPLBでは核内倍数性は低かった.
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