Research Abstract |
前年度,ヒルベルトの第14問題に対する新しい反例を,長年未解決だったいくつかの場合に与えることに成功した.本年度は,この問題に対する反例を体系的に構成するためのより統一的な理論の構築を目指し,独自に開発した手法の精密化や定式化,さらに背後に潜む概念の本質の解明に取り組んだ.その過程で,多項式環における局所冪零微分の概念やアフィン空間の自己同型の概念,さらにSAGBI基底の類似の概念が浮かび上がり,これらについてより深く研究する必要があることが判明した.多項式環における局所冪零微分に関しては,これまで前例のなかったニュートン多面体の概念を用いた研究を行い,いくつかの結果を得た.例えば,ニュートン多面体の観点に立つと,局所冪零微分に対して「斉次性」の概念が自然に定義できる.そして,局所冪零微分の一種である三角微分の場合には,斉次であればその構造はニュートン多面体の組合せ論的な量によりほぼ統制可能であることが分かった.2005年初旬(1月11日から2月11日)に,多項式環論研究の世界的中心地の一つであるオランダRadboud University of Nijmegen(旧名University of Nijmegen)に滞在し,Arno van den Essen氏やMichiel de Bondt氏,Stefan Maubach氏らと活発な議論を行った.その結果,三角微分以外の一般の局所冪零微分などに関する研究において,重要な進展が得られた.これまでは,既に構造を熟知していた三角微分についての知識を基に,一般の局所冪零微分の研究を行っていた.しかし,三角微分以外の一般の局所冪零微分の中には,予期していなかったような性質を持つものが多数存在することが分かった.当初,斉次な局所冪零微分のニュートン多面体の余次元は,三角微分の場合と同様に常に1であると予想していたが,これに対しても数多くの反例が存在することが分かった.
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