2004 Fiscal Year Annual Research Report
自然資源とソーシャル・キャピタル:タイ北部跨境流域での住民ネットワークの形成
Project/Area Number |
04J00564
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
BADENOCH Nathan A 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ソーシャル・キャピタル / 住民ネットワーク / 北タイ / 流域管理 / 民族間関係 / モン族 / カレン族 |
Research Abstract |
現在、タイ北部の山地では、地域住民自身が、資源管理をめぐる紛争とその解決をめぐる協調の必要性という新しい問題に取組んでいる。山地民の経済活動を従来支えたケシ栽培は、約10年前に途絶え、代わりにキャベツなどの野菜栽培が急速に広まった。そして、この農業の変化は、山地部の独特な生態環境の下で、上流域の住民と下流域の住民との間に、水の利用と管理という問題を惹き起こした。この問題は、村落、行政地区、そして民族といった社会集団を跨ぐものであり、既存のガバナンス制度では対応が困難である。そこで、複数のレベルで「住民ネットワーク」が形成され、現地住民のソーシャル・キャピタルを土台にしながら、中央政府や現地当局というフォーマルな組織を補完しようとする試みが行われてきた。 このソーシャル・キャピタルめ実態の理解には、インフォーマルなネットワークとして現れる、現地社会内の重層的な社会関係に注目することが重要である。カレン族とモン族が隣り合って野菜栽培を営む調査地では、村落内部の社会関係、そして村落の境界を越えたネットワークの検討を通して、新たな農業生産システムにおける共同活動の可能性と制約が共に見出される。例えばモン族の村では、スプリンクラー灌漑の近年の普及によって、本来世帯が単独で行ってきた農業活動に、世帯間の協調的水管理が見られるようになった。一方で、希少化する資源をめぐる紛争はますます深刻化しており、現地の流域管理ネットワークが協調的な問題解決を生み出していない事実も明らかになった。その理由には、まず、インフォーマルなネットワークの社会的な拘束力の弱さが挙げられる。またそれは、民族を超えた相互信頼の構築を涵養するまでに至っていない。 一つの小流域に混在する異民族村落をまとめ、共同活動をめぐるネットワークを構築する可能性は、民族間関係の歴史と現在の政治社会的動向に対する現地社会の状況を、より細かく観察・検証していく中で見出されるものと考えられる。
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