Research Abstract |
ランダム群とは有限生成群の集合上の確率測度のことであり,Gromovはgenericな有限生成群の性質を調べたり,エクスパンダーを含む群を構成したりするのに用いた.その研究の中でGromovは,密度とよばれる[0,1]区間に値をとるパラメーターdを含むランダム群のモデルを考え,密度dが0から1/2の間の群は双曲群になることを示した.Zukは2003年に,さらに密度が1/3から1/2のランダム群はKazhdanの性質Tを持つことも示している. 著者は,このZukによる結果をさらに強めることができる可能性を追求した. 現段階に於いて,ランダム群の性質を調べる手段は大きく分けて二つあると考えられる.一つはSmall Cancellation Theoryで,もう一つは,群が固有不連続,ココンパクトに,単体的に作用するような単体複体のスペクトル的な性質を調べることである.実際,Gromovによるエクスパンダーを含む群の構成の中で,この二つの手法を発展させることが重要であった.一方,昨年,井関,納谷は後者の方法で,非常に強い群の固定点定理を導いている.そこで,Zukによる密度が1/3から1/2のランダム群に関する結果に,この井関,納谷の固定点定理を組み合わせることで,ランダム群についてKazhdanの性質Tよりも強い固定点定理が成り立つ可能性について検討を行った.まず,Zukの結果を見直し,これが井関,納谷の固定点定理から導かれるのかを考えた.直接の系としては得られないことが分かったが,このことは井関,納谷の固定点定理がさらに拡張できる可能性を示しているとも思え,これは今後の研究課題である.さらに,井関,納谷の導入したCAT(0)空間の不変量δをビルディングのような具体的な空間に対して計算することができるとさらに強い結果を導き出すことができる可能性があるため,その計算にも取り組んだが,これについてはまだ新しい結果は得られていない.
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