2004 Fiscal Year Annual Research Report
チンパンジーにおける視覚的運動情報の処理とその理解:ヒトの視覚認識との比較研究
Project/Area Number |
04J01060
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松野 響 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | チンパンジー / 運動視 / 運動方向弁別 / 時空間特性 / 因果知覚 / 衝突事象 / 比較認知科学 / 視知覚 |
Research Abstract |
チンパンジーの視知覚特性を以下の2点から検討した。第一に、運動方向知覚における時空間特性について検討した。チンパンジーはヒトの最近縁種であり、その視知覚能力はヒトとの類似が指摘されているが、チンパンジーを対象とした運動視の基礎特性に関する研究はこれまでにおこなわれていない。本研究では、矩形波格子刺激を用いて方向弁別の時空間特性を検討した。実験では、矩形波格子刺激の仮現運動における空間周波数、時間周波数を変え、ヒトとチンパンジーの運動方向弁別の成績を比較した。その結果、チンパンジーでのみ時間周波数の低下に伴い成績の低下が顕著であった。この結果は、両種で視知覚の時間特性が異なっている可能性があることを示唆している。第二に、衝突事象の知覚と文脈事象の効果について検討した。衝突事象はこれまでヒトを対象とした「因果知覚」の研究において重要なトピックであった。一方、比較認知科学においては、物理的な因果の認識など、より高次の認知能力に関する種間比較が盛んである。しかし、運動する物体の因果的な相互交渉の知覚特性の研究は、ヒト以外の霊長類において過去に例がない。本研究では、同一の二物体が交差するという、衝突とも通過とも解釈できる両義的な運動事象を用い、チンパンジーの知覚判断をヒトでの実験の結果と比較検討した。結果、同一の円形刺激の交差は、チンパンジーではヒトよりも「衝突」と知覚されることが多いこと、ランダムドット刺激のようなより固形性の乏しい刺激を用いた場合、チンパンジーでもヒトと同様に「通過」が優勢に知覚されること、また、明らかな衝突事象が二物体の交差と同期して呈示された場合、テンパンジーでもヒトと同様に、二物体の交差が「衝突」に知覚される比率が有意に高まることが明らかになった。これらの結果は、チンパンジーが運動する二物体の相互交渉をヒトと同様に知覚していることを示唆している。
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