2004 Fiscal Year Annual Research Report
「天狗草紙」の構想にみる中世日本の〈宗〉認識と仏法観
Project/Area Number |
04J03622
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
土屋 貴裕 千葉大学, 大学院・社会文化科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 天狗草紙 / 鎌倉時代 / 絵巻 / 諸宗兼学 / 諸宗和合 |
Research Abstract |
本研究は、鎌倉時代に制作された「天狗草紙」の考察を起点として、同時代に制作された寺社縁起絵、高僧伝絵等の仏教主題の絵巻制作の意義を、それぞれの作品に内包された<宗>認識、仏法観の解明を通じて明らかにするものである。 本年度は、本研究の中心課題となる「天狗草紙」に関する分析を重点的に進めた。まず、本絵巻を含めた諸本の系統を明らかにした。新出の「天狗草紙」詞書写本や、異本関係にある絵巻とを比較検討することで、諸本に共通する祖本の存在が確認できた。次いで、本絵巻制作の仏教思想的背景を、本絵巻の制作者とされる「寂仙上人遍融」の活動から検討した結果、遍融は現存する絵巻ではなく、散逸した祖本の制作に深く関わることを明らかにした。加えて、遍融は真言を中心に、様々な教学を兼学する「諸宗兼学」の学僧であり、このような立場から本絵巻が制作されたと考えられる。このような点から特に注目されるのは、念仏宗で用いられた「摂取不捨曼荼羅」の図像が本絵巻で引用されていることである。「天狗草紙」では、この図像の意味内容を反転させて引用することで、「諸宗和合」とも呼ぶべき仏教教団・宗派間の抗争を批判的に眼差す機能が付与されていることを明らかにし、従来の研究史にはない新たな研究成果を提示した。以上の考察は、「「天狗草紙」の復元的考察」として『美術史』159冊(2005年10月)に掲載予定である。 これらの分析に加え、「天狗草紙」の絵画表現に込められた意味と機能を、他の絵画作品からの引用・影響関係から検討し、あわせて本絵巻の様式史的位置を明らかにする作業を行った。これらの分析を通じて、本絵巻を含めた十三世紀末から十四世紀初頭における絵画制作の場の一端が解明されるものと思われるが、これらに関しては来年度以降、成果を発表していきたい。
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Research Products
(1 results)