Research Abstract |
開眼受術者の知覚体験から,かたちの知覚の成立には触覚が大きな役割をはたしているということが明らかにされている(鳥居・望月,1992,1997;梅津,1997).それに対して視覚正常者における空間的な知覚では,他の感覚モダリティよりも視覚が優位であるということが報告されている(Gibson, 1933 ; Rock & Victor, 1964).このような感覚モダリティ問相互作用の研究においては,空間定位が影響を与えると言われており(Spence, 2002),開眼者が視覚における知覚を成立させるためにも重要であると考えられている(鳥居・望月,1992,1997).また,現実場面におけるかたちの知覚に近づけるためにも,空間定位の問題は重要であると考えられる.そこで,視覚パターンとしてヘリング錯視とヴント錯視を,触覚パターンとして木の板を用いるとともに,視触覚提示台を用いて視覚と触覚の空間定位を一致させ,視覚正常者を対象に,触覚が視覚に対して与える影響について検討した.その結果,湾曲錯視図形における主線の"見え"は,触覚情報の方向へ偏向することが示された.さらには,目と手の協応動作によって"見え"はより触覚情報の方向へ偏向することが明らかとなった.また,各視覚パターンにおける触覚パターンなし条件では,主線の"見え"に差がなかったことから"見え"は見方によって変化するのではなく,自と手の協応動作が"見え"に対する影響を規定する要因の一つとなっていることが示された。 また,視覚と触覚の空間定位を一致させた状態と,不一致状態との比較を行い,触覚が視覚に対して与える影響について検討した.その結果,空間定位一致・不一致両状態において主線の"見え"は,触覚情報の方向へ偏向することが示されたが,空間定位が一致した場合の方が,不一致の場合よりも,"見え"はより触覚情報の方向へ偏向することが明らかとなった.
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