Research Abstract |
本研究の目的は,自己決定理論に依拠して,英語学習者の動機づけを高める教育介入を行い,その効果を検証することであった。自己決定理論とは内発的動機づけに関する研究を中心に据えた,心理学における動機づけ理論である。自己決定性の程度により動機づけを細分化し,多様な動機づけ概念の検討を可能としている。また,動機づけを高める要因として,3つの心理的欲求(自律性,有能性,関係性;以下,3欲求)の充足を想定している。本研究では,英語学習の観点から3欲求を捉え直し,これらの欲求が英語学習者の動機づけを高める要因として果たす役割を検討した。 調査に当たっては,3欲求を満たすことを意図した教育介入を約12週間にわたって行った。具体的な介入としては,ライティング授業における自由英作文活動を用いた。学習活動に幅広い選択と責任を提供し(自律性),建設的かつ情報的なフィードバックを与え(有能性),共同作業による学習場面を作り出す(関係性)ことにより,3欲求を同時に満たす可能性を持つ学習活動を実施し,その効果を全体傾向と個人差の観点から検証した。 研究の結果,3欲求は英語学習者の動機づけを喚起する上で重要な働きを果たす一方,学習者の動機づけの特徴に応じて,その働きは異なる可能性があることを指摘した。動機づけの発達を支援するためには,学習者の動機づけ段階に応じた働きかけが必要になる。従来から,個人差に応じた学習支援は強く求められてきたが,本研究はそのような指導を行う上での具体的な視座を提供する。さらに,これまでの動機づけ研究はその大半が記述的な調査である。そのような現状において,一定期間にわたって教育介入を行い,その効果を検証した本研究は,学習者の動機づけが発達変化していく過程とメカニズムを解明する上で重要,かつ有意義な試みであり,より洗練された動機づけ理論の構築に貢献し得る研究だと考える。
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