2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09789
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 薫 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 古代ギリシャ / エウリピデース / 悲劇 / 生まれ / ピュシス / ノモス / 民主政 |
Research Abstract |
ギリシア悲劇における「生まれ」概念の検討、および上演当時のアテナイのポリス社会における「生まれ」概念をめぐる言説との関係を明らかにするため、エウリピデス『エレクトラ』、『イオーン』、『エレクテウス』について、ソポクレス作品との比較考察を行いつつ、研究を進めた。 血縁関係という社会関係を支配する「生まれ」の言説の矛盾を描きこれに対する批評を行うソポクレスの『エレクトラ』に対し、同じ神話に取材するエウリピデスの『エレクトラ』においては、王家の血筋、すなわち「高貴な生まれ」という要素に焦点が当てられ、「生まれ」が個人の行動を規定する原理として機能する際に生じる諸問題に対する批評が行われていると論じる。『イオーン』においては、アテナイ人のポリスの起源、すなわちその「生まれ」を説明するアウトクトネス神話が批評的に扱われており、民主政ポリスの市民団の過去を描き出す形で、その排他性が批評的に示されている、と分析する。断片が伝わるエウリピデス『エレクテウス』も同様にアテナイの起源説話を扱う作品であるが、市民の「アウトクトネスとして生まれ」を通じたポリスに対する帰属という言説と、これに伴うポリスのための自己犠牲が、距離を持って描かれている。 民主政ポリスの国家祭儀で行われた悲劇競演において、ポリス市民団のアイデンティティの根幹にも関わる「生まれ」の概念を、とりわけアテナイ市民団の起源に関係する形で、エウリピデス劇が批評的に組み入れているという事は、特筆に値する。これまで得られたソポクレス作品、エウリピデス作品における「生まれ」概念の研究成果は、来年度のアイスキュロスにおける「生まれ」概念の分析にも有益である筈である。
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