2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09884
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沖本 幸子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD)
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Keywords | 今様 / 白拍子 / 乱拍子 / 声 / 滝口 / 猿楽 |
Research Abstract |
今年度の研究成果は、院政期の初頭、白河院時代および、鎌倉時代に目を向けて、今までほとんど触れられなかった宮廷における雑芸能の流行の諸相を明らかにし、それらが室町時代の猿楽能成立にも影響を及ぼした可能性を指摘した点にある。 「猿楽愛好の系譜」および「今様の場をつくった人々」は、白河院時代に宮廷の中に巷間の芸能が積極的に取り入れられていく様を、芸能熱を支えた人々に焦点を当てながら考察したものである。二つの論考から、摂関家の人々、および、白河院皇女という貴族社会の中枢の人々が巷間の芸能を愛好することで、宮廷にも猛楽名手、今様名手らの活躍の場が生み出され、宮廷の芸能熱が高められていく様子が浮かび上った。 一方、鎌倉時代の宮廷の芸能熱の諸相を考察したのが「滝口と芸能」「白拍子・乱拍子の声」である。この二つの論考は、今様熱が衰退していくのと平行するように流行し始めた、白拍子・乱拍子という新たなリズムの歌舞について、その流行の具体的な様子を明らかにしたものである。「滝口と芸能」では、宮廷武士である滝口が、乱拍子の歌などを歌う芸能者として活躍し、宮廷のみならず、寺院の芸能の場にも赴き、猿楽能成立とも深く関わる場で、巷間の芸能者や寺院の芸能者とともに芸能を行っていた可能性を指摘した。また、「白拍子・乱拍子の声」は、白拍子、乱拍子の芸能としての特質を、「声」の形、歌われ方に注目する中で明らかにしようとしたものである。今様までの「声」の形と比較する中で、どのような声を理想とするかという感性が明らかに変質していたことを指摘した。そうした声の美学の変容と、鎌倉時代に入り武士の勢力が強くなってきた時代性との関わりについて考察した上で、白拍子、乱拍子の声が、世阿弥の音曲論に示された猿楽能を支える二つの声へとつながっていく可能性を指摘したのである。
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Research Products
(4 results)